573 / 729
連載
ゾルディ・プルテック
しおりを挟む
エクレールを悩ませたのは突然の来訪者であった。
国王への謁見なのそうそう叶うものではない。それが一般市民の男ともなれば余計に難しい。
しかし、その男は城門を警護する兵士にこう語ることで謁見まで漕ぎ着けた。
「俺には国王の血が流れており、私の母が死ぬ直前に国王への手紙を書いていた。その手紙を直接国王へ届けたい」
話を聞いた兵士はどう対処すべきか悩んだ挙句、他の兵士や上の者を通さず国王にありのままを伝えたのである。それは兵士なりの配慮だった。
国王が外に妾を作り子どもを産ませているという可能性を考慮し、その話が他の者の耳に入ることを避ける。真っ当な配慮だ。
兵士から話を聞いたエクレールは即座に謁見の許可を出す。もちろん男の話を全て信じていた訳ではない。けれど自分の血を継いでいる者がいるのならば直接会わなければならなかった。エクレールにとっては自分の血は憎むべきもの。その気持ちに揺らぎも曇りもなかった。
無駄に広い謁見の間にてエクレールが待っていると男が入ってくる。二十代半ばくらいだろうか。色素の薄い長髪と青い瞳が特徴的な青年である。
男の姿を目で捉えたエクレールは玉座に座ったままこちらに歩いてくる男に声を掛けた。
「名は?」
挨拶などはなく唐突に問いかけられた男は眉間に皺を寄せながらも口角を上げ、怒っているのか笑っているのか分からないような表情で言葉を返す。
「俺の顔を見ても分からないってのか。まるで神様気取りだな・・・・・・国王ってのはそんなに偉いのかよ」
明らかに負の感情を乗せられた男の言葉。しかし、エクレールはそんな言葉など聞こえていないかのように先ほどと同じ問いを繰り返す。
「名は?」
そんなエクレールの態度が男の怒りに火をつけたらしい。男は眉間の皺だけを維持したまま叫んだ。
「俺の名前はゾルディ・プルテック。母さん・・・・・・セルティア・プルテックとお前の息子だ! エクレール・マスタング」
「そうか。王を呼び捨てにした不敬を寛大な心で赦そう」
ゾルディの名前を聞いても冷たく淡々と返すエクレール。そんな言葉がゾルディの怒りを増幅させていった。
「赦そう? 許さないのはこっちだ。母さんは死ぬ直前までお前を愛していたんだ・・・・・・お前に捨てられ、苦労しながら女手一つで俺を育てていたってのにお前に対して恨み言なんて溢さなかった。俺は何度もお前に支援を求めようと勧めたさ。けれどお前には迷惑をかけられないって・・・・・・そう言って死んでいったんだ!」
ゾルディは感情を叫びに換えて吐き出す。
だが、その熱がエクレールに移る様子もない。冷静さを保ったまま最小限の言葉で聞き返した。
「それがどうしたという。馬鹿な女が一人死んだだけだ。それにお前を息子と認めた訳ではない。哀れさに免じてこれまでの不敬は赦したが、ここから先の言動は己の丈を知り慎め」
国王への謁見なのそうそう叶うものではない。それが一般市民の男ともなれば余計に難しい。
しかし、その男は城門を警護する兵士にこう語ることで謁見まで漕ぎ着けた。
「俺には国王の血が流れており、私の母が死ぬ直前に国王への手紙を書いていた。その手紙を直接国王へ届けたい」
話を聞いた兵士はどう対処すべきか悩んだ挙句、他の兵士や上の者を通さず国王にありのままを伝えたのである。それは兵士なりの配慮だった。
国王が外に妾を作り子どもを産ませているという可能性を考慮し、その話が他の者の耳に入ることを避ける。真っ当な配慮だ。
兵士から話を聞いたエクレールは即座に謁見の許可を出す。もちろん男の話を全て信じていた訳ではない。けれど自分の血を継いでいる者がいるのならば直接会わなければならなかった。エクレールにとっては自分の血は憎むべきもの。その気持ちに揺らぎも曇りもなかった。
無駄に広い謁見の間にてエクレールが待っていると男が入ってくる。二十代半ばくらいだろうか。色素の薄い長髪と青い瞳が特徴的な青年である。
男の姿を目で捉えたエクレールは玉座に座ったままこちらに歩いてくる男に声を掛けた。
「名は?」
挨拶などはなく唐突に問いかけられた男は眉間に皺を寄せながらも口角を上げ、怒っているのか笑っているのか分からないような表情で言葉を返す。
「俺の顔を見ても分からないってのか。まるで神様気取りだな・・・・・・国王ってのはそんなに偉いのかよ」
明らかに負の感情を乗せられた男の言葉。しかし、エクレールはそんな言葉など聞こえていないかのように先ほどと同じ問いを繰り返す。
「名は?」
そんなエクレールの態度が男の怒りに火をつけたらしい。男は眉間の皺だけを維持したまま叫んだ。
「俺の名前はゾルディ・プルテック。母さん・・・・・・セルティア・プルテックとお前の息子だ! エクレール・マスタング」
「そうか。王を呼び捨てにした不敬を寛大な心で赦そう」
ゾルディの名前を聞いても冷たく淡々と返すエクレール。そんな言葉がゾルディの怒りを増幅させていった。
「赦そう? 許さないのはこっちだ。母さんは死ぬ直前までお前を愛していたんだ・・・・・・お前に捨てられ、苦労しながら女手一つで俺を育てていたってのにお前に対して恨み言なんて溢さなかった。俺は何度もお前に支援を求めようと勧めたさ。けれどお前には迷惑をかけられないって・・・・・・そう言って死んでいったんだ!」
ゾルディは感情を叫びに換えて吐き出す。
だが、その熱がエクレールに移る様子もない。冷静さを保ったまま最小限の言葉で聞き返した。
「それがどうしたという。馬鹿な女が一人死んだだけだ。それにお前を息子と認めた訳ではない。哀れさに免じてこれまでの不敬は赦したが、ここから先の言動は己の丈を知り慎め」
0
お気に入りに追加
2,845
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。