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一瞬にも満たない

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 倉野たちを取り囲んでいる何者かが相手にしようとしているのは『通常』ではない。
 地形の利、先手を取った利、姿を隠している利。どれほどの利を重ねようともその積み重ねを壊す理が存在した。
 レオポルトから合図を受けた倉野は即座にスキルを発動する。

「スキル『神速』発動。さらにスキル『探知』発動」

 相対的に周囲の時間が停止している状況を作り出した倉野は『探知』によって自分達を取り囲む何者かを探した。
 画面上に表示されている対象は十。全員がこちらから肉眼では見えないよう木の陰や周囲の葉っぱで身を隠している。

「取り囲んでいるのは十人か。いやぁ、レオポルトさんがいち早く気づいてくれていなければどんなスキルがあっても危なかったな」

 そう呟く倉野。どれだけスキルを身につけていようとも発動しなければ基本的な能力は一般的なサラリーマンと変わらない。特別鍛えているわけでも感覚が鋭いわけでもないのだ。
 レオポルトの察知能力がなければ現在囲まれていることも矢で貫かれる瞬間まで気づかなかっただろう。
 自分の油断を反省しながら倉野はスキル『探知』が指し示す場所に向かった。
 生い茂る野草をかき分け木の後ろに回り見つけたのは弓を構えながらレオポルトたちの方を睨みつけている男。
 木の一部にでもなったかのように気配を殺し、レオポルトに対して矢の先を向けていた。
 レオポルトが四人の中で一番の実力者だと判断し先に仕留めるべきだと考えたのだろう。
 どのように対処しようかと一瞬考えた倉野だったが、そもそもこの男たちの目的がわからない。意識を失わせるのは得策ではないと野営に使用したロープを持ってくる。
 
「とりあえず武器を取り上げて縛っておくか。結構大変だぞ」

 そんなことを呟きながら作業を始めた。
 スキル『神速』によって他の者には一瞬に感じられるが、倉野の体感時間は普通に地道な作業をこなす時間と変わらない。優雅に泳いでいるように見える白鳥が水面下で必死に水をかいているのと同じだ。
 一人また一人と武器を取り上げ動けないように体を縛り、レオポルトの前に転がす。その作業を十回繰り返した倉野は呼吸を整えてからスキルを解除した。

「はぁっ・・・・・・結構大変だったな。よし、スキル『神速』解除!」

 倉野がそう唱えると一気に周囲の時間は動き出す。
 レオポルトたちからすると突然目の前に十人の縛られた男たちが現れ、男たちからすると突然縛られて地面に転がされているのだ。自分達が取り囲んでいた標的の目の前に無防備すぎる状態で置かれた男たちは一斉に慌て始める。

「ど、どうなってるんだ」
「くそ! 何だこれ」
「お、おい。まさか全員やられたってのか!」

 それぞれ困惑を言葉にする男たち。目の前で縛られた男たちを確認したレオポルトは握っていた拳を開いてため息をついた。

「ふむ・・・・・・周囲に気配は無くなったな。これで全員か?」
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