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森の悪寒

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 進み続けるのだ。デュワール・オレンジに限らず、己の正義を盲信し世界の全てだと錯覚しているものは他の道など見えない。他者の言葉など届かない場所にいる。
 誰かに止められるその時まで。
 それはどの世界においても変わらない。それが理。
 しかしノエルの思いは理外にいる倉野たちには届いている。
 デュワールと同じように倉野たちも進み続けていた。自分が信じる道を、自分を信じてくれる仲間のために。
 ノエルとデュワールの背中を見送った倉野たちは一度来た道を戻ることにした。
 ノエルの頭の中にある計画を手助けするための準備を整えるためである。
 手前にあった町を目指し、倉野たちが再び森に足を踏み入れるとすぐにレオポルトが足を止めた。
 
「レオポルトさん?」

 背後で足音が止んだことに気づいた倉野が首を傾げるとレオポルトは周囲を見回し静かに口を開く。

「これか・・・・・・この森を抜ける直前に感じた戦場にいるような寒気の正体は」
「どうかしたんですか?」

 倉野が再度問いかけるとリオネが背負っていた弓を手に取るのが見えた。

「え、リオネさんまで一体・・・・・・」

 レオポルトの次に異変に気づいたのはリオネである。それに気づいた彼女は周囲に対して警戒心を振りまいていた。
 その様子から只事ではないと判断した倉野とレインも不測の事態に対応できるよう身構える。
 四人が背中を合わせるように集まるとレオポルトが小さな声で語り始めた。

「囲まれているぞ。ワシでさえもこの距離まで気付けないほど気配を殺していた手練れが数人だ。最初にこの森を通過した時も警戒されていたのだろう。ただ通過するだけならば問題ないと考え監視に留めていたらしい。しかし、ワシらは再び森に戻ってきた・・・・・・監視から警戒、そして次の段階へと行動を進めたのだろうな」
「次の段階・・・・・・ですか?」

 倉野がそう問いかけるとレオポルトが裏拳の要領で右後ろにいたレインに拳を繰り出す。
 突然仲間に攻撃を仕掛けたのかと思えば拳はレインの目前でピタッと停止した。そしてその手には姿の見えぬ何者かが放ったであろう矢が握られている。
 レオポルトはレインに突き刺さろうとしていた矢を受け止めたのだ。
 その上でレオポルトはこう言い放つ。

「攻撃という段階だ」

 相手が何者なのか、何が目的なのかはわからない。しかし放たれた矢は確実にレインの命を狙っていた。
 そこにあるのは明らかな敵意。純然たる殺意。
 レオポルトに守られたと気づいたレインは礼を言うために視線を移す。

「助かったよ、レオポルトさん」
「礼はいい。それよりも警戒を怠るな。今のワシらは眼球の動きすらも監視されていると考えろ・・・・・・相手はこの森に慣れた手練れ・・・・・・気配を殺し、どこから放たれるか分からない攻撃で追い詰めるつもりだ。手強いぞ・・・・・・通常ならばな」

 レオポルトは言いながら左手で倉野の肩を叩いた。
 彼の言う通り、こちらからは見えぬ敵であり囲まれ監視されている状況。その上、相手が森に慣れている手練れとなれば不利すぎるはずだ。
 繰り返しになるが彼の言う通り『通常ならば』である。
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