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衝突する二組

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 フォンガと分かれた車は慣性の法則に従いある程度進み続けるはずだ。車をその場に停止させるため倉野はスキル『神腕』を保ったまま両手を突き出して停車させる。
 慣性の法則などと常識らしい話を持ち出したが、ここは異世界でありその中でも倉野は常識から大きく外れた存在。スキル『神速』を解除した瞬間、後退りさせられるでもなく時間を切り取ったかのように車を止めた。
 レオポルトたちから見れば倉野が瞬間移動したかのように見えている。しかし、何が起きているのかは理解していた。その上でそれぞれの行動に出る。

「フォンガはワシに任せろ!」

 レオポルトはそう叫んで車を置いて走るフォンガへと向かっていった。車を引っ張るという目的を失ったフォンガは何をすればいいのか分からずパニックになる恐れがある。冷静なレオポルトなりの判断だ。
 ある程度フォンガに駆け寄るとレオポルトは両手を地面に叩きつける。

「大地よその形を変え壁となれ! アース・ウォール!」

 レオポルトが発動したのは両手から放った魔力を地面を通し、フォンガの四方を土の壁で閉ざすというものだ。
 突然、周囲を囲まれたフォンガは驚いた表情を見せるが瞬く間に壁の中に封じられてしまう。もちろんすぐに状況を把握できるはずもなくフォンガは遠吠えに似た鳴き声を漏らした。
 そんな叫びに応えるようにレオポルトも言葉にならない叫び声をあげる。獅子の咆哮だ。

「ガアッ!」

 レオポルトの咆哮を聞いたフォンガはその瞬間に大人しくなり物音ひとつ立てなくなる。
 叫び声だけで上下関係をはっきりさせたのだ。
 
「俺はノエルを!」

 レオポルトがフォンガに向け飛び出した瞬間、レインも切り離された車の方に駆け寄っていく。
 どちらに動けばいいのか分かっていなかったリオネは一旦、倉野に向かって走った。
 急停止した車の中では前方に叩きつけられる大きな力が働いたらしくガチャガチャと聞こえてくる。
 しかし、中にいたノエルとデュワールは咄嗟に反応し窓を破って外に飛び出してきた。それでも受けた衝撃を殺しきれず何度か転がってから受け身を取り立ち上がる。

「不愉快極まりない。まったく手荒い歓迎ですね。私を失うことはこの世界に置いて大きな損失ですよ・・・・・・レインさん」

 立ち上がったデュワールは迷わずレインに視線を送り煽るような笑みを浮かべた。
 同時に立ち上がったノエルは無表情のまま倉野に視線を送る。

「まさか生きていたとわね・・・・・・悪運の強い男」

 まるで本気で倉野を殺そうとしていたかのような台詞だ。一瞬心臓を掴まれたかのような重圧を感じた倉野。
 そんな彼の動揺を感じ取ったリオネは間に入りノエルに話しかける。

「ノエル・・・・・・ノエルの本心はどこにあるの。このまま私たちを超えて行って後悔はないの?」
「愚問ね、リオネ。私には私の理由があるの」

 リオネとノエルが向かい合っている最中、デュワールとレインも同じように向かい合い火花を散らしていた。

「デュワール・オレンジ! お前の目的は・・・・・・いや、そんなことはどうでもいい・・・・・・何があっても許せそうにはないからね」
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