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思い耽る夜

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 テントと言っても四方を塞いだものではなく、落ちていた枝や大樹に布を結んで屋根と風除けを作っただけのものであり中は窮屈ではない。
 倉野、レオポルト、リオネが寝転んでもまだまだスペースはあった。
 風除けの隙間から星空を見上げながら倉野は無人島で漂流した時のことを思い出す。レインとの会話がそうさせたのかもしれない。
 無人島での夜、ちょうど今のような瞬間に倉野はイスベルグと出会ったのだった。最初は互いに利益のある取引のような関係だっただろう。しかし、いつしかイスベルグはかけがえの無い仲間になっていた。
 様々な戦いを経て、倉野とイスベルグは心を通わせたのである。

「イスベルグさん・・・・・・」

 思わず倉野はそう呟いていた。
 その言葉がイスベルグに届くわけなどない。だが、倉野にもできることはある。イスベルグに託された最後の願いを叶えることだ。

「この件が解決したらイスベルグさんの願い通り、竜王にイスベルグさんとデザストルの死を伝えにいかないと」

 それがイスベルグの最後の願いである。
 もちろん、今回の件がなければすぐにでも竜王を探す旅に出ていた。しかし、ノエルがこのような状況になった今、優先させるべきはこちらである。
 イスベルグもそう言うはずだ。自分のことよりも生きている者を優先させろと。
 そんなことを考えていた倉野はいつしか眠りに落ちる。
 ふわふわとした眠気が全身を包み、意識が遠のいた。
 
「クラノ・・・・・・クラノ!」

 眠っていた倉野はレオポルトに名前を呼ばれハッと目を覚ます。
 目を開けた瞬間、目前にレオポルトの顔があったことで驚愕した倉野は声をあげた。

「うわっ!」
「うわ、とは聞いたことのない朝の挨拶だな」

 苦笑いを浮かべながらレオポルトが言うと倉野は冷静さを取り戻し謝罪する。

「あ、すみません。ちょっと驚いてしまって」
「人のことを魔物みたいに言うな。見張り交代の時間だ」

 そう言ってレオポルトはテントの中で座り込んだ。周囲を見渡すとレインとリオネが静かに眠っている。
 そこでようやく状況を理解した倉野は自分の番が回ってきたのか、と立ち上がりテントの外に出た。
 空を見上げると陽が昇り始めている。朝は遠くないようだ。

「もう朝か。今日中にはバレンドットに繋がる橋に到着するだろうし気を引き締めないとな」

 ようやくここまで辿り着いた倉野たち。今日の行動がこれからの未来を決めるだろう。
 果たしてノエルを救い出すことができるのか。
 今はまだ誰も知らない。
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