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ノエル、エクスルージュにて

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 倉野たちがホロフジスタンの草原を歩いている時、ノエルはデュワールと共にエクスルージュの飛行船場からホロフジスタンに向かって歩いていた。
 エクスルージュの飛行船場は街に併設されていたが、到着したのが前日の昼頃ということで街には寄らずに進んでいる。
 デュワールはこのような道程になることを知っていたので野営の準備も整っており、昨夜は草原で過ごした。
 ノエルにとってデュワールは心を許せない相手であるため昨夜は全くと言っていいほど眠れていない。
 一旦の目的地として目指しているのはホロフジスタンとの国境にあるクルスマインという街だ。
 ある程度整備された道を歩きながらデュワールがノエルに話しかける。

「そんなに急いで大丈夫でしょうか? 昨夜は眠れなかったのでしょう?」
「・・・・・・誰のせいだと思ってるのよ。アンタみたいなのと一緒に寝れるわけないでしょう。故郷を売り捨て、仲間を売り捨て、心を売り捨てるような
奴を信用できるわけがない・・・・・・結局、どこにもアンタの居場所なんてないのよ」

 顔を逸らしながら毒を吐くノエルにデュワールは怪しい笑みを向けた。

「はっはっは、これは手厳しい。しかし、今の言葉には正しさと誤りが同居しておりますよ。確かに全てを捨てたのは私ですね。しかし、居場所がないという部分に関しては誤りでしょう。居場所なんてものはね、勝者が掴むものなんですよ。それ以外の人間は勝者に支配されることを居場所と呼んでいるだけ。与えられた居場所をあたかも自分のものだと錯覚しているのです。法も秩序も勝者が決める・・・・・・世界の行く末さえもね」

 高らかに語るデュワール・オレンジ。その表情は自分を正義だと信じて疑っていなかった。
 しかし、ノエルにはそんなデュワールの言葉など響かない。

「・・・・・・馬鹿みたい」
「ええ、英雄はいつの時代も馬鹿だと嘲笑われたものです。そんなものに屈せず、己の信念を貫いたものが後に英雄と呼ばれるのですよ」

 デュワールの言葉を聞きノエルは話しても無駄だと察し黙って歩く。
 ノエルとデュワールがホロフジスタンとバレンドットを結ぶ橋まであと二日。もちろん、全ての道程を歩くわけではない。ホロフジスタンとの国境でフォンガ車に乗ってかかる日数が二日だ。
 それまでノエルはこの歪んだ信念を貫く男と過ごさなければならない。
 ノエルの心は徐々に濁り始めていた。
 これまで倉野たちが助けに来てくれると信じていたが、今は不安に押しつぶされそうになっている。
 もしもデュワールの野望が達成されればどうなるのか。それはノエルだけが知っている。

「レイン・・・・・・クラノ・・・・・・お願い。世界を守って・・・・・・」

 自分の耳にも届かない声量で呟くのがノエルの精一杯だった。
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