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レインの痛み

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 どれだけ焦っても飛行船の速度は変わらない。その間、ずっと気を張っていても疲弊するばかりだ。
 ホロフジスタンとバレンドットを結ぶ橋で何が起こるかわからない以上、可能な限り休んでおくべきだろう。
 そう考えた倉野がリオネに話しかけた。

「あ、リオネさん、どうぞベッドに」
「へっ!? いや、そんな」

 突然の誘いに驚くリオネだったが倉野は自分がソファで寝るからベッドで休んで欲しいという意味で言っている。
 リオネの勘違いに気づいたレオポルトが茶化すように口を開いた。

「おいおいクラノ。ベッドに誘うにはあまりに唐突すぎないか? ワシらもいる上にそんな誘い方ではムードもあったものではないな」
「いや、違いますよ。僕がソファで休むのでリオネさんはベッドに、と思っただけです」

 倉野がそう答えるとリオネは自分の勘違いに気づき赤面する。

「あ、そ、そうですよね。私ったら・・・・・・その」
「いえ、その、僕も言い方が良くなかったですね。すみません」

 返答しながら倉野はソファに座った。入れ替わるようにリオネがベッドに座ると次はレインが立ち上がる。

「あれ、レインさん? どうしたんですか?」

 突然立ち上がったレインに倉野が声をかけると彼は首を横に振った。

「いや、なんでもないさ。少し飛行船の中を歩いてこようかと思ってな」

 そう言ってからレインは部屋を出ていく。その背中はどこか悲しげであった。
 レインの背中を見送った倉野はどうにも彼の心情が気になりソファから立ち上がる。
 するとベッドで横になり目を瞑っているはずのレオポルトが音だけで状況を把握し声をかけた。

「やめておけ」
「え?」
「今は一人にしてやれ。レインに寄り添いたいと思うお前さんの気遣いは買うが、放っておいてやるのも優しさだ。どうしようもなく取り乱していたところをワシらの言葉で何とか抑えたが葛藤や苦悩が消えたわけではないだろう。心配することはない、奴は騎士だ。自分の役割は分かっているだろう。差し詰めワシらの役割は騎士を囚われの姫の元へと運ぶ白フォンガと言ったところか」

 聞き慣れない『白フォンガ』という言葉だが、白馬のような意味合いだろう。
 レオポルトの言葉を聞いた倉野は納得しゆっくりとソファに座り直した。

「・・・・・・そうですね」

 それぞれの想い、役割、目的。それらは全て二つの国を結ぶ橋で衝突するだろう。その結果はもちろん神のみぞ知ることだ。
 どれだけこの瞬間が辛くても時間は戻せない。痛みを抱えながら進むしかないのだろう。
 ホロフジスタン行きの飛行船はそうして進み続けた。
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