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 レオポルトに問いかけられたレインは少し考えてから全ての陰鬱な感情を捨てるように自らの頬を叩く。
 その痛みは自分の心を疑ったことへの罰。
 突然の状況で狼狽えてしまった自分を冷静にさせるための行動だった。
 儀式のような自分へのビンタを終えるとレインはすっきりした表情で頷く。

「そうだね、レオポルトさんの言う通りさ。自分の理想を押し付けてその理想から外れただけ。勝手に失望していたのは俺だ。状況や可能性だけで失望するなんてどうかしていたよ」
「ふっ、それでこそオランディ国軍騎士レイン・ネヴァーだ」

 そう言いながらレオポルトは微笑んだ。
 二人の会話を聞いていた伯爵は誰よりも冷静に思考し口を開く。

「レイン殿が落ち着いたようで何よりです。しかし、状況は変わらない。もう一度現状を整理しましょうか。クラノ殿に関してはラフレールの効果が切れれば目覚める・・・・・・そうすると考えなければならないことは二つ。一つ目はもちろんノエル殿のことです。大きな被害はなかったですが彼女を放っておくことはできません・・・・・・仲間として」

 伯爵にとってノエルは恩人の一人。レイチェルが呪いにかけられた時も帝都がネメシスに襲われた時も倉野と一緒に戦ってくれた大切な恩人だ。
 今回の件がノエルの犯行だったとしても、それは変わらない。
 もしもノエルがどうしようもない事情を抱えているのならば力になりたいと思っていた。
 そう思っているのは伯爵だけではない。この場にいる全員が同じ気持ちだった。
 最愛の倉野を失いかけたリオネとレイチェルも涙目ながらに頷く。

「はい」
「もちろんです」

 全員が同じ気持ちなのだと確信したグランダー伯爵は言葉を続けた。

「二つ目は『ピース・リンク』について。皇帝陛下謁見から既に数日経っています。いつ返答があってもおかしくはない。そちらについては延期を申し出るわけにもいきません」
「相手が皇帝陛下では待たせるわけにもいきませんよね」

 リオネがそう話すと伯爵は優しく首を横に振る。

「いえ、事情があれば陛下も待ってくれるはずです。しかしそのためには何が起きているのかを説明しなければならない。『ピース・リンク』の中で問題が発生していると知れば陛下ではなくその周辺が援助に反対する可能性があります。この先どうなったとしても『ピース・リンク』の計画だけは遂行しなければなりません。この世界のために」

 説明を聞いたリオネは納得したように頷いた。
 伯爵は自分の評判や地位のために延期の申し出はできないと言っているのではない。全ては先を見通してのことだった。
 そんな伯爵の思いに反対する者などいるはずもなく、全員が納得すると続いてレオポルトが話し始める。

「では、ワシらは再び別れて行動する必要がありそうだな」
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