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空間を満たす思考

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 レオポルトの挨拶を聞くとジェルジュールは一瞬だけ彼の方を向き、再び葉っぱに視線を送る。
 ようやく見えた顔は驚くほど整っており、知的な雰囲気を纏っていた。
 レオポルトの出身をビスタ国と聞き、獣人なのだと判断した上で一瞬だけ観察したらしい。
 そんなジェルジュールの態度を見かねたグランダー伯爵は半ば謝罪のように補足する。

「申し訳ない。ジェルジュール氏はこういう方なんです。植物への知識や興味は情熱的なものの対人間に関しては驚くほど無感情でして」

 するとレオポルトは理解したように頷いた。

「まぁ、没頭する何かを見つけた者はそういう性質を持っていることが多いですからな。ワシも魔物についての研究をしておりましたからジェルジュール氏の気持ちを理解できないことはありません」

 ジェルジュールの態度を受け入れるようにレオポルトが話すと伯爵が優しく苦笑する。
 しかし、何故かジェルジュール本人が不満の声を漏らした。

「私は植物に没頭し研究しているのではありません。植物を極めるために生まれてきたのですから、没頭しているのは当然です。ああ、付け加えるとするならばうるさいです。今、全ての知識を引っ張り出してきているので静かにしていただけますか」

 明らかに立場が上であるグランダー伯爵に対しても言いたいことを言い黙らせるジェルジュール。
 今、彼の機嫌を損ねるわけにはいかないため伯爵とレオポルトは黙って見守った。
 ジェルジュールは様々な角度から乾燥した葉っぱを観察すると、手にとって匂いを確認する。人間の嗅覚では感じぬほどの微かな甘い匂い。どれだけ知識があろうともそれをジェルジュールが感じることはないだろう。
 本人もそれを理解しているため、手の上に乗せた葉っぱをレオポルトに近づけた。

「獣人は人間よりも嗅覚が鋭いのでしょう? 私には無臭に感じるのですが、何か感じることがあるのならば教えていただきたいですね、はい。明確に正確に分かりやすく」

 再び捲し立てるように言われたレオポルトは少し気圧されるように感じながら答える。

「あ、ああ。微かに甘い匂いがする。少し気持ち悪くなる匂いだ。花の蜜を煮詰めたような匂いと言ってもいい」

 レオポルトがそう答えるとジェルジュールはすぐに机へと戻り呟き始めた。

「甘い匂い・・・・・・気持ち悪くなる・・・・・・ということは南の方に自生している植物か。花の蜜とはあまりに曖昧ですがね。国までは絞りきれないが、温度や湿度は推測できる。燃えた後があるということは燃やして使うのでしょう・・・・・・しかし、死者が出ているかつ量が少ないため実験は難しい。あの、静かにしてもらえますか?」

 自分の考えを呟いていたジェルジュールは突如、伯爵とレオポルトにそう言い放つ。何も話していなかった伯爵たちは驚き首を傾げた。
 言葉の意味を理解していないとわかったジェルジュールは少し面倒そうに言葉を付け足す。

「伯爵方が考えてもこの植物の正体には辿り着けないでしょう。だから私がいる。余計な思考でこの空間を満たさないでいただきたい」

 どうやら自分の背後で考え事をしている二人をうるさいと感じたようだ。
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