異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

死を告げるサイン

　するとレオポルトの目には扉の前で倒れ、体でその開閉を防いでいる倉野が映る。そんな倉野の上ではツクネが心配そうにしながら扉をガリガリと引っ掻いていた。

「クラノ！」

　そう叫びながらレオポルトは窓を開けようとした。しかし、内側から鍵がかかっているらしく開かない。
　何度かガチャガチャと試した末にレオポルトは片手で自分の体を支えて拳を握る。

「・・・・・・致し方あるまい」

　呟いてからレオポルトは窓に拳を打ち込んだ。発達した筋肉を余すことなく利用したパンチは楽々窓を打ち抜き大きな音を立てて破片を散らす。
　部屋の中では驚いたツクネが高く飛び上がり、レオポルトの方に顔を向けた。
　そんなレオポルトは自分が開けた穴に腕を入れて内側にある鍵を開ける。そのまま窓も開けると素早くよじ登って部屋に入った。
　
「おい、クラノ！　大丈夫か」

　そう言いながら倒れている倉野に駆け寄るとツクネが心配そうにレオポルトを見上げる。
　ツクネの心情を察したレオポルトは膝をついて口を開いた。

「大丈夫だ、ツクネ。何があったのかは知らんが簡単に死ぬような男ではないだろう、クラノは。おおかた足でも滑らせて頭を打ったの」

　そう言いながら倉野の首筋に触れ、何かを確認するレオポルト。そこにはあるべきものが存在していなかった。

「なっ・・・・・・そんなわけがない！」

　驚愕を隠せずに叫ぶとレオポルトは勢いよく自分の耳を倉野の左胸に近づける。普通の人間とは違い猫のような耳を持つレオポルトは倉野の腹に顔を載せるくらいが丁度いい。
　そんなわけないと思いながら確認すると、またしてもそこにあるべきものは存在していなかった。
　それは鼓動、または脈である。
　倉野が生きていると示す体からの信号がそこにはなかった。
　ここまで確認しても納得できないレオポルトは倉野の顔に手のひらを近づけ、呼吸を確認する。
　またそれもない。

「・・・・・・呼吸がない・・・・・・くそ！　いつからだ、いつからこうなっていた！」

　心臓と呼吸が止まってからどれくらいの時間が経っているのか。蘇生は可能なのか。レオポルトの脳内で疑問と情報が暴れ出した。
　しかし、緊急事態であるのならば尚更冷静でなければならない。そう知っているレオポルトは素早く倉野の体を抱き抱えると扉の外にいるリオネたちに声をかける。

「二人とも部屋に入ってくれ。もう扉は開く」

　そう言いながら倉野の体をベッドの上に寝かせた。
　直後、レオポルトの言葉を聞いたリオネとレイチェルが部屋に入ってくる。

「ど、どうしたのでしょうか？」

　慌てながらベッドに駆け寄るレイチェル。
　リオネも同様に近づいた。

「え、クラノさん・・・・・・これは一体」

　まるで眠っているような倉野を見て戸惑う二人だが、レオポルトは即座にこう言い放つ。

「詳しく説明している暇はない。一刻を争う事態であると理解してくれ。止まっているんだ・・・・・・クラノの心臓は動いていない」