上 下
506 / 729
連載

学者オレンジ

しおりを挟む
 けれど世界中の国の法律や現状を知らなければ『世界連盟』の規律など作れるわけがない。
 主観だけで作った法に平等性など存在しないとレオポルトやノエルはわかっていた。
 では、二人はどのようにして会議を続けたのだろう。それは第三者に監修を依頼することだった。
 既にそう考えていたレオポルトは事前にグランダー伯爵に依頼し、世界中の法律や情勢に詳しい学者を紹介してもらっていたのである。

「だったら先に教えておいてよねって話じゃない?」

 その時のことを思い出しながらノエルが言うとレオポルトは不適な笑みを浮かべた。

「いや、ワシが自己判断で第三者に監修させたのではお前さんと組んでいる意味がなくなるだろう。それでは当事者意識がなくなってしまうかもしれない。まずはお前さんと話し合い、共通の意見として第三者を介入させることを求めている必要があったということだ」

 レオポルトが行動の意図を説明するとノエルは唇を尖らせて反論してみる。

「もし私が第三者の介入を求めなかったらどうするつもりだったの?」
「その時はまた別の方法を考えればいい。こうして決めていった意見は限りなく平等に近いだろう? 平和と平等は非なるものだが似ている。まぁ、盲目的に平等が正義だとは思わんが、少なくとも不平等は争いの種を産んでしまう」

 そう語るレオポルト。
 彼は獣人である。この世界において獣人は差別の対象であった。その根底には獣人は人間の成り損ないという風潮が存在する。
 レオポルトもこれまで数多くの不平等を受けてきたはずだ。
 経験上、不平等が争いを産むと知っていたのだろう。あらゆる戦いを体験してきた彼の言葉は重く、その場にいた全員を納得させるだけの説得力があった。

「そう言われればそうね」

 そう答えたのはノエルである。これも彼女の良いところの一つだ。
 納得できる意見であれば素直に受け止める。簡単なようで難しい。
 ノエルを納得させたレオポルトはさらに話を進めた。

「グランダー伯爵に紹介してもらったのはこの国の学者、デュワール・オレンジ氏。先ほども言ったように世界中の法律や情勢に詳しい人物だ。そうですよね、伯爵」

 レオポルトはあえて伯爵に話を振る。
 自分の主観で話すよりもデュワールに詳しい伯爵が説明することで全員に伝わりやすいと考えたのだ。
 話を振られた伯爵はグラスを置いて口を開く。

「ええ、デュワール氏は世界中の情勢を研究し、この国の防衛や発展に貢献してくれている学者です。どこかの国が戦争を起こそうとしている、新しい技術が開発された・・・・・・そんな情報を手に入れることでエスエ帝国は他国の行動から遅れずにいられると言っても過言ではないでしょう」
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした

メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました! 1巻 2020年9月20日〜 2巻 2021年10月20日〜 3巻 2022年6月22日〜 これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます! 発売日に関しましては9月下旬頃になります。 題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。 旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~ なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。 ────────────────────────────  主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。  とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。  これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。 ※カクヨム、なろうでも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。