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先に逝く黒

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 そんなデザストルの気持ちは同じ体の中にいるイスベルグに共有されていた。
 たった一度の後悔で過去の罪を洗い流せることなどない。だが、イスベルグは不思議とデザストルを憎む気にはなれなかった。
 そしてデザストルの気持ちがイスベルグに共有されたように、イスベルグの気持ちもデザストルに共有される。
 憐れみでも諦めでもない、文字通りの理解。
 イスベルグの気持ちを感じ取ったデザストルは心の中が何かで満たされていくのを感じ、苛立っているような口調で口を開いた。

「くそっ・・・・・・よりにもよってテメェが、かよ」
「ふっ、随分と遠回りしたが近くにあったな」

 イスベルグがそう答えるとデザストルはあえて強い言葉で返す。

「鬱陶しい話し方しかできねぇのかよ、クソ」
「ああ、これが私の性分だ。話し方についてはクラノにも何度か注意されたな」
「はっ、人間にかよ」
「人間ではない、クラノだ。お前がただのドラゴンではなくデザストルであるようにな」

 倉野を名前で呼ばないデザストルに独自の理論を投げかけるイスベルグ。
 するとデザストルは存外あっさりと受け入れ、視界に移る倉野を確認した。
 どう見ても弱々しい人間にしか見えない。
 けれど、そんな弱々しい人間が逃げずに立ち向かってきたのは事実である。
 
「・・・・・・すげぇなぁ・・・・・・」

 思わずデザストルはそう呟いていた。
 本人はこれが相手を認めるという行為だとは気づかず、何も呟いていないかのように言葉を続ける。

「なぁ、イスベルグ。俺様はもう死ぬだろう?」
「ああ、死ぬ。私も死ぬがな」
「そこの人間・・・・・・いや、違うな。クラノを信じてもいいか?」
「当然だ」
「俺様が言いたいことはわかるか?」
「ああ、わかる」
「ならいい、俺様の残された時間はテメェにくれてやる。あとはお前が決めろ・・・・・・クソ兄貴」

 最後の最後にイスベルグを兄だと認め、体から魂が抜け落ちたようにこの世から意識を消し去った。
 目の前にいる兄弟の会話を聞いていた倉野は何が起きたのか分からず首を傾げる。
 するとデザストルの口からイスベルグの声が響いた。

「デザストルはもう死んだ。この体に残された時間を私に託してな」
「デザストルがそんなことを?」

 驚きながら聞き返すとイスベルグは優しい口調で言葉を続ける。

「奴なりの贖罪なのだろうな。デザストルの罪は許さずとも良い。許す必要などない。だが、最後の最後に変わろうとしたことを認めてやってくれ」
「・・・・・・はい」
「感謝する。さて、このような空気は苦手だが、説明責任だけは果たそう。私は体を捨てることでデザストルの体に入り込むことができた。つまり私の体はもう死んでいる。そしてこの体が死ねば私も死ぬ。それはわかっていたな?」
「・・・・・・はい」
「デザストルは自らの魂を魔力に変換することで少しだけこの体の命を延ばした。それによって今、私はお前と会話することができている。しかし、今の私はこの体を修復することも再び倉野の体に戻ることもできない。全ての魔力を戦いの中で使い果たしてしまったからな。私はこのままこの体と共に死んでいく、そこに悔いはない」
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