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絶望の形

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 指示に合わせて倉野がクレアシオンを盾のように構えると『センター』のちょうど中心が赤黒い炎を放ち始める。
 負の感情を可視化したような炎に引き寄せられるようにも感じた。
 炎は少しずつ大きくなり、一気に上空へと舞い上がる。
 まるで花火の如く飛翔した炎は、また花火のように広がった。

「な、なんだ、これ」

 目に見えている空全てを覆うような炎に倉野は思わず声を漏らす。
 するとイスベルグは剥き出しの敵意を言葉に乗せて答えた。

「復活の祝砲・・・・・・のつもりだろうな。舞い上がった炎を自分に見立てているのならば望み通り散らせてやろう」

 イスベルグの言葉に反応するかのように上空の炎は徐々に形を変える。
 やがて山と見まごう程の塊になり、そこから空を覆うほどの両翼が生えた。
 その大きさは倉野がこちらの世界に来てすぐに遭遇したドラゴンやネメシスが使用していた兵器ブレッドの比ではない。
 生物はもちろん建造物でも存在しないほどの大きさだ。例えるとするならば災害。

「これが・・・・・・厄災・・・・・・」

 倉野はその言葉に意味を思い知らされていた。
 時間が止められるから、最強の武器を手にしているから、命をかけるから、そんなことは些細なことだと突きつけられる。
 身体の芯からデザストルに畏怖しているのが分かるほど、震えていることに気づく倉野。
 心折れる寸前でイスベルグとの誓いが体を支えた。
 必ず生き残る。誰も死なせない。
 倉野が戦う覚悟と向き合った瞬間、上空の翼を持つ塊は一気に炎を散らし遂にその全貌を明らかにする。
 ゴツゴツとした漆黒の体表、空を覆い隠す闇の翼、凶悪な爪と牙、鮮血のように赤い瞳、纏う赤黒い地獄の業火。地獄から現れたドラゴンという形容がふさわしい。その全てがデザストルを厄災たらしめていた。
 復活を果たしたデザストルは地の底から響くような声を吐き出す。

「俺様の復活だぜぇ・・・・・・ひゃっはっはっはぁ!」

 空から響いてくるその声だけで倉野は崩れてしまいそうになる。怯えているのではない。声が重力のようにのし掛かるのだ。

「くっ・・・・・・なんて重圧だ」

 倉野が呟いているとデザストルは周囲の異変に気づいたらしく言葉を続ける。

「ああ? どうなってやがんだぁ。復活に備えてこの場が栄えるように仕向けたはず・・・・・・何故だろうな、人間の気配が薄いぜぇ」

 目だけを動かし、周囲の状況を確認したデザストルは口角をあげた。

「そうか、すぐそこに避難しているようだなぁ。下等生物の腐った脳髄では理解しきれんらしい、俺様に距離なんて関係ねぇよ。どのみち全ての人間を根絶やしにするんだからなぁ。俺様を殺した罪、全人類の命で贖え!」

 感情を剥き出しにしてそう叫ぶデザストル。
 明確すぎる力の差と圧倒的な存在感に倉野の足は震え、本能は逃げろと指示を出している。
 だが、倉野は抗った。危険を察知する本能、勝算などないと告げる理性、重圧で痺れる手足。その全てに抗った。
 あらゆるものを薙ぎ払うように声を絞り出す。

「待て! デザストル!」
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