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託す想い

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 オネットと別れた倉野は走りながらイスベルグの返答を聞いていた。

「何度も言うがクラノ、私が答えるよりもお前のスキルで調べたほうが早く確実だろう。だが、復活するであろう場所はわかっている。お前自身もその肌で感じているのではないか?」

 イスベルグの言う通り、倉野は誰かに指示をされたわけでもなく『センター』に向かって走っている。
 そこに論理も思考も根拠もない。ただ体が赴くままに動き出していた。
 
「じゃあ、復活場所は・・・・・・」
「ああ、想像通りだ。魔法式が円形になっているのは力の循環を中心に伝えるためだからな。この集落自体がデザストル復活のために造られている。おそらく奴の残留思念が人間の思考に干渉したのだろう」

 イスベルグはそう答えてから何かを考え込むように沈黙する。
 間違いなく復活場所が『センター』であると確証を得た倉野は周囲に気を配りながら走り続けた。
 どうやらオネットの作戦が成功しているらしく住民や観光客は我先にと東西南北の門を目指す。その上でレインやリオネ、アルダリンが避難を促す声が響いてきた。
 仲間の声が倉野の背中を押す。
 誰一人死なせてなるものか、と湧き出る感情を血液に乗せて身体中を巡らせた。
 頭の先から爪先まで全ての血管と臓器、いや細胞の一つ一つまで奮い立たせる。
 厄災デザストルを倒さなければこの世界は確実に終わるだろうという重圧を薙ぎ払った。
 倉野の心から溢れ出る感情は明確な言葉へと変換される。

「デザストルは必ず倒す! たとえ僕が死んだとしても!」

 世界で唯一その言葉を聞いていたイスベルグが小声で返答するが、走り続ける倉野には届かなかった。
 なんとか『センター』まで辿り着いた倉野はその光景を見て一安心する。
 最もアンゼロスの出口から遠いこの場所に人の気配がなかったからだ。避難が進んでいるという証拠である。

「よかった・・・・・・誰もいない」

 そう呟く倉野だったが一息ついている時間がないことはわかっていた。
 ドクンドクンと響く厄災の鼓動がさらに早まり、全速力で走ってきた自分のそれとほとんど同じ早さで聞こえてくる。
 もう来るのか、と身構える倉野だったが突如として一気に鼓動が聞こえなくなった。
 そしてイスベルグの声だけが彼の鼓膜を揺らす。

「聞け、クラノ」
「イスベルグさん?」
「今のお前ではデザストルに勝つことはできない。確かに小さき相棒の力を借りれば空を飛ぶことができるだろう。天地創造の大剣を呼び出せば傷を負わせることもできるだろう。だが、そうすればお前は必ず命を落とす」

 イスベルグから告げられた言葉に動揺する倉野だったが、腹の奥に携えてきた覚悟が支えた。

「っ・・・・・・それでも僕は!」
「聞け、と言っている。お前がこの世界のために命を賭けているのは承知の上だ。いいか、この世界は悲しみで満ちている。少しばかり姿形が違うというだけで虐げられる世界だ。私はこの世界に絶望していた。どれだけの年月を重ねても偏った目は消えず、悲しみの連鎖は終わらない。しかし、私は希望を見つけた・・・・・・クラノ、お前だ。お前ならばこの悲しみの連鎖を断ち切ることができる。私やあの子はそれを・・・・・・それだけを望んだ。お前はこんなところで死んではならない・・・・・・生きろ! どれだけ返り血を浴びても、どれだけ泥水を啜ってもな。この場で私に誓え! 必ず生きて世界を導くと!」
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