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負の自己陶酔

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 魔法式の研究をしていたオネットとアルダリンには勿論魔法式の知識がある。
 そしてこの場所にある魔法式が世界を滅ぼしかねないというイメージを持っていた倉野。
 イスベルグの言っていた要素が揃ってしまっていたのだ。
 復活の最後の鍵を握っていたのは間違いなく倉野である。
 自分が厄災のきっかけになったことを知った倉野は心臓を握られたかのような感覚に陥った。

「ぼ、僕が・・・・・・アンゼロスに来たせいで・・・・・・」
「それを言うなら私の存在が原因だ。もう少し早くデザストルの存在に気づいていれば対処のしようはあっただろう。魔法式を破壊するなり、この場を去るなりな。だが、私はデザストルの存在に気づくことは出来なかった。あまりにも奴の魔力のは質が私に似ているためにな。しかしその後悔に意味はない」

 珍しく自虐的な発言をするイスベルグ。この状況の責任を感じているというのもあるが、倉野にその責任を感じさせないためだった。
 イスベルグの気遣いを感じた倉野は負の自己陶酔を恥じる。
 今は自分を責める時間ではない。起きてしまった状況をどう対処すべきかを考えるべきだ。
 イスベルグの言葉で冷静に戻った倉野はイスベルグに話しかける。

「すみません、少し負の感情に引っ張られて・・・・・・」
「気にしなくていい、それもデザストルの影響だ。奴の纏っている地獄の業火は負の感情を撒き散らす。自分を見失うなクラノ」
「ありがとうございます、イスベルグさん。とにかく今はアンゼロスの人々を逃さないと」

 倉野は自分自身に聞かせるようにそう言い放つと屋敷の外に向かった。

 少しだけ時間を遡る。
 オネットがアルダリンたちを追って屋敷の外に出たとき、誰も都市の外に逃げようとしていなかった。
 レインやリオネ、アルダリンが必死の形相で避難を促すが誰も話を真に受けていない。

「早く、避難してください! じゃないと・・・・・・」

 必死に訴えかけるリオネだったが、周囲の人間は冷ややかな視線で彼女を眺める。

「何言ってるのかしら」
「逃げろったって・・・・・・」
「そもそも何が起きているんだよ」

 そんな周囲の人間からの反応を受けながらアルダリンがレインに話しかけた。

「誰も話を聞いてくれませんね。仕方のない話ですが・・・・・・」

 弱気な言葉が出てくるのも無理はない。
 突然、避難するように叫んでも真に受けてくれるわけがなかった。
 厄災の鼓動が早まり焦りも募っていく。
 どうすればいいんだろうとレインたち三人が追い詰められた瞬間、遅れてオネットが合流した。

「やり方を間違っていますよ、アルダリン。レインさんやリオネさんもです」
「オネット・・・・・・」
「ほとんどの人間は自分の利益のためにしか動かないものです。自分の身に迫っている危険も目の前に来なければ理解できない。そこに利益を見出せないからです。ですので、危険を目の前に持ってきてあげましょう。皆さん、泥を被る覚悟は持ち合わせていらっしゃいますか?」
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