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男の名はシュクルート・ヘイズ

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 そう、倉野は騒ぎを聞きつけ近づいてくる衛兵に気付き、殴りかかる男を止めたのである。
 止められた男は怒りを堪える表情を浮かべて倉野の手を払った。

「くそっ、ぜってぇ許さねぇからな! 明るい夜ばかりだと思うなよ!」

 厳つい男はそう吐き捨てその場を去っていく。
 そんな背中を見送ってから倉野は振り返り長髪の男に視線を送った。すると長髪の男は少し驚いたような表情のまま口を開く。

「いやぁ、これは想定外でしたよ」

 倉野はその言葉で全てがこの男の計算通りであったことを確信した。

「やっぱり、あのタイミングで相手を煽ったのは計算だったんですね」
「・・・・・・なんの話でしょうか」

 長髪の男が誤魔化そうとするとようやく衛兵が人だかりをかき分け、倉野たちに話しかける。

「何か騒ぎが起きていると聞いたが、お前たちか。詳しく話を聞かせてもらおう」
「いえ、僕ではなく・・・・・・」

 衛兵に説明しようと倉野が口を開くと、すぐにレイチェルが割って入ってきた。

「あの、その方は騒ぎを止めようとしただけですよ」

 レイチェルの言葉を聞いた衛兵は彼女の服装や佇まいから貴族であることを察し、態度を変える。

「そ、そうでしたか。これは失礼致しました。もう騒ぎは収まっているということですね」

 衛兵がそう言いながら謙るような表情を浮かべると長髪の男は好機と言わんばかりに口を開いた。

「いやぁ、お騒がせして大変申し訳ありません。私が酔っ払いに絡まれているところをこのお二方に助けていただきまして。まったく困りますねぇ、酔っ払いは。本当に大したことではなかったのですが、心配していただきありがとうございます。それにしてもやはり帝都の衛兵様は素晴らしい。このような小さな騒ぎも見過ごさずに駆けつけてくださる。おかげで私たち庶民は安心して生きていくことができます」

 つらつらと捲し立てるような速度ながらも柔らかい口調で話す長髪の男。
 衛兵をおだてつつこの騒ぎが大したことではなかったと主張している。
 まんまと言葉に乗せられた衛兵はレイチェルに頭を下げてから人だかりを解散させるとその場を去っていった。
 残されたのは倉野とレイチェル、そして長髪の男である。
 倉野は一息ついてからレイチェルに感謝を伝えた。

「ありがとうございます、レイチェルさん。助かりました」
「いえ、それよりもそちらの方は?」

 レイチェルは言いながら倉野の背後にいる長髪の男へ視線を移す。
 すると長髪の男はヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべながら頭を下げた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はシュクルート・ヘイズと申します。いやぁ危ないところでした。助けていただき感謝いたします。それでは私はこれで」

 そう言ってシュクルートはその場を去ろうとする。人間はやましいことがあると即座にその場を去ろうとするものだ。
 倉野は即座にシュクルートの手を掴みこう語りかける。

「全ては計算でしたよね。あのタイミングで殴られることも狙っていた」
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