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計算通りと笑みを浮かべる男
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これまでの会話から察するに厳つい男の方が金を騙し取られたというところだろうか。だが、長髪の男は焦ることなくうまく言葉を返している。
「俺の金を返せって言ってるだけだろうが!」
厳つい男が再び叫んだ。
すると長髪の男は胡散臭い笑みのまま言い返す。
「ですから、契約上は全財産を持って償う、というものです。全財産はお渡ししましたし、これ以上の弁済義務はないかと」
「全財産ってこんな小銭で納得できるわけねぇだろ。そもそも、契約した時にはもっと持ってたはずだ。あの金はどうした」
納得できないという感情をあらわにする厳つい男。
倉野は少しずつ話が見えてきたぞ、と小さく頷く。
するとその隣で倉野の表情を見ていたレイチェルが彼に問いかけた。
「もしかしてクラノ様は何かお分かりになったんですか?」
「なんとなくですが・・・・・・とにかくもう少し話を聞いてみましょう」
倉野はレイチェルにそう言うと目の前の揉め事に視線を戻す。
厳つい男から全財産の少なさを問われた長髪の男は表情一つ変えずにこう答えた。
「あぁ、あれは私のものではありません。とある方からお借りしたものです。契約時にもこれが私の財産だと言った覚えはありませんし嘘などついていませんよ。何事も誠実に、それが私の心情ですからね。私は契約の義務を果たした。それでも結果は伴わなかった。ですので、契約していた弁済を行なった。それで終わりじゃあないですか」
長髪の男の言葉はまるでそれが正義であり真実であり真理であるかのように感じさせる。
話し方とテクニックなのだろうか。
思わず倉野はなるほどと頷く。おそらくこの男はあらゆる状況を想定し答えを用意しているのだろう。そうなると厳つい男に話を覆す余地などないはずだ。
答えなど最初から見えている。
そして長髪の男が想定しているだろう通りに話は進んでいった。
「そんなんで納得できるわけないだろうが!」
そう言いながら厳つい男は拳を握り長髪の男に殴りかかる。
言葉では解決しないと判断したのだろうか。暴力で決着をつけようとしている。
その瞬間、長髪の男は一層の笑みを浮かべた。全ては計算通り。そう言わんばかりの笑みに倉野は寒気を感じる。
底知れぬ腹の内を垣間見た気がして一瞬体が動かなくなる倉野だったが、次の瞬間には『神速』を発動していた。
神の名を冠するにふさわしいほどの速度で二人の男の間に体を滑り込ませ、厳つい男の拳を受け止める。
「暴力はやめた方がよさそうですよ」
倉野がそう語りかけると厳つい男は驚きながら問いかけた。
「な、なんだお前! いきなり、どこから」
突然目の前に現れた倉野に驚きを隠せない。背後にいる長髪の男も周囲の人間も驚いている様子だった。
『神速』を発動して驚かれるのにはもう慣れている倉野。説明もせずに小声で言い返した。
「落ち着いてください。人だかりと叫び声に反応して衛兵が向かってきています。このまま拳を振り下ろせば罪人として裁かれることになりますよ。今ならまだ間に合います。一旦引きましょう」
倉野はそう言いながら視線を右に送る。その動きに誘導され、厳つい男がその方向を見ると確かに衛兵が近づいてきていた。
「俺の金を返せって言ってるだけだろうが!」
厳つい男が再び叫んだ。
すると長髪の男は胡散臭い笑みのまま言い返す。
「ですから、契約上は全財産を持って償う、というものです。全財産はお渡ししましたし、これ以上の弁済義務はないかと」
「全財産ってこんな小銭で納得できるわけねぇだろ。そもそも、契約した時にはもっと持ってたはずだ。あの金はどうした」
納得できないという感情をあらわにする厳つい男。
倉野は少しずつ話が見えてきたぞ、と小さく頷く。
するとその隣で倉野の表情を見ていたレイチェルが彼に問いかけた。
「もしかしてクラノ様は何かお分かりになったんですか?」
「なんとなくですが・・・・・・とにかくもう少し話を聞いてみましょう」
倉野はレイチェルにそう言うと目の前の揉め事に視線を戻す。
厳つい男から全財産の少なさを問われた長髪の男は表情一つ変えずにこう答えた。
「あぁ、あれは私のものではありません。とある方からお借りしたものです。契約時にもこれが私の財産だと言った覚えはありませんし嘘などついていませんよ。何事も誠実に、それが私の心情ですからね。私は契約の義務を果たした。それでも結果は伴わなかった。ですので、契約していた弁済を行なった。それで終わりじゃあないですか」
長髪の男の言葉はまるでそれが正義であり真実であり真理であるかのように感じさせる。
話し方とテクニックなのだろうか。
思わず倉野はなるほどと頷く。おそらくこの男はあらゆる状況を想定し答えを用意しているのだろう。そうなると厳つい男に話を覆す余地などないはずだ。
答えなど最初から見えている。
そして長髪の男が想定しているだろう通りに話は進んでいった。
「そんなんで納得できるわけないだろうが!」
そう言いながら厳つい男は拳を握り長髪の男に殴りかかる。
言葉では解決しないと判断したのだろうか。暴力で決着をつけようとしている。
その瞬間、長髪の男は一層の笑みを浮かべた。全ては計算通り。そう言わんばかりの笑みに倉野は寒気を感じる。
底知れぬ腹の内を垣間見た気がして一瞬体が動かなくなる倉野だったが、次の瞬間には『神速』を発動していた。
神の名を冠するにふさわしいほどの速度で二人の男の間に体を滑り込ませ、厳つい男の拳を受け止める。
「暴力はやめた方がよさそうですよ」
倉野がそう語りかけると厳つい男は驚きながら問いかけた。
「な、なんだお前! いきなり、どこから」
突然目の前に現れた倉野に驚きを隠せない。背後にいる長髪の男も周囲の人間も驚いている様子だった。
『神速』を発動して驚かれるのにはもう慣れている倉野。説明もせずに小声で言い返した。
「落ち着いてください。人だかりと叫び声に反応して衛兵が向かってきています。このまま拳を振り下ろせば罪人として裁かれることになりますよ。今ならまだ間に合います。一旦引きましょう」
倉野はそう言いながら視線を右に送る。その動きに誘導され、厳つい男がその方向を見ると確かに衛兵が近づいてきていた。
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