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夜風の逢瀬
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倉野がそう問いかけると一気にレイチェルの表情は明るくなる。
「はい! では参りましょう」
頷きながら答えた彼女は倉野を引っ張るように歩き始めた。
軽い足取りで跳ねるように歩く娘の後ろ姿を眺めながらグランダー伯爵がつぶやく。
「ふっ、我が娘ながら可愛らしい性格をしている。さて、クラノ殿はその価値に気づいているかな」
「どうでしょうか。あの英雄は色を好まぬようですから」
シラムがそう返答すると伯爵は意味深な笑みを浮かべた。
「わからぬぞ、シラム。クラノ殿は自分の気持ちを制御する術を知っているようだ。むしろ知りすぎている。大いなる力を得ても腰が低いのはそういうことだろう。もしも制御しなくてもいい気持ちがあると理解すれば、その時は・・・・・・」
「その時は盛大にお祝い致しましょう。新しき当主の誕生を」
「当主と二人の夫人か・・・・・・それがレイチェルの望む形ならば私は反対しないだろう」
どうやら伯爵はリオネが倉野へ抱く気持ちも将来の展望に加えているらしい。
その上で娘の幸せを願っていた。
いつか来る日を予見しているように。
倉野とレイチェルは肩を並べ貴族街を抜けて庶民街まで来ていた。
元々、貴族街にある食料品店で干し肉を買う予定だったのだが、すでに閉店してしまっていたのである。
遅くまで店が開いていると人々が出歩き、治安の低下につながる。そのため、貴族街の店は比較的早く閉まり、庶民街の店は遅くまで開いているのだ。
「ちょっと遅かったみたいです。でも庶民街の店ならまだ開いているはずですから」
レイチェルが倉野を導くように歩きながらそう語りかける。
どうやら自分が自信満々に案内した貴族街の店が閉店しており、申し訳なく思っているようだ。
そんな彼女の気持ちを察した倉野はフォローするように微笑みかける。
「そうですね。けど庶民街まで歩くのも悪くないですよ。ほら、夜風が気持ちよくて」
庶民街の大通り。様々な店が立ち並び、それぞれの光が煌々と道を照らしている。貴族街にはない騒がしさと人通りがどこか懐かしさと親しみやすさを感じさせた。大通りを抜けていく夜風が心地よく肌を撫でる。
レイチェルは髪を靡かせながら優しい笑みを浮かべた。
「ふふっ、実は私も楽しんでいます。クラノ様と二人きりでこうして歩くのは初めてですから」
「確かに、いつも何かに巻き込まれてバタバタしていましたからね。なんだかデートみたいで照れます」
「でぇと?」
「あー、えっと、男女が買い物や食事をすることです」
「逢瀬ということですね。そんな言い方をされると私も照れてしまいます」
そう言いながらもレイチェルは嬉しそうな表情を浮かべる。
そんな話をしていると食料品店に辿り着いていたらしくレイチェルが倉野の手を引いた。
「あ、こちらですよ」
手のひらから伝わる体温に動揺しながらも倉野はついていく。
「はい! では参りましょう」
頷きながら答えた彼女は倉野を引っ張るように歩き始めた。
軽い足取りで跳ねるように歩く娘の後ろ姿を眺めながらグランダー伯爵がつぶやく。
「ふっ、我が娘ながら可愛らしい性格をしている。さて、クラノ殿はその価値に気づいているかな」
「どうでしょうか。あの英雄は色を好まぬようですから」
シラムがそう返答すると伯爵は意味深な笑みを浮かべた。
「わからぬぞ、シラム。クラノ殿は自分の気持ちを制御する術を知っているようだ。むしろ知りすぎている。大いなる力を得ても腰が低いのはそういうことだろう。もしも制御しなくてもいい気持ちがあると理解すれば、その時は・・・・・・」
「その時は盛大にお祝い致しましょう。新しき当主の誕生を」
「当主と二人の夫人か・・・・・・それがレイチェルの望む形ならば私は反対しないだろう」
どうやら伯爵はリオネが倉野へ抱く気持ちも将来の展望に加えているらしい。
その上で娘の幸せを願っていた。
いつか来る日を予見しているように。
倉野とレイチェルは肩を並べ貴族街を抜けて庶民街まで来ていた。
元々、貴族街にある食料品店で干し肉を買う予定だったのだが、すでに閉店してしまっていたのである。
遅くまで店が開いていると人々が出歩き、治安の低下につながる。そのため、貴族街の店は比較的早く閉まり、庶民街の店は遅くまで開いているのだ。
「ちょっと遅かったみたいです。でも庶民街の店ならまだ開いているはずですから」
レイチェルが倉野を導くように歩きながらそう語りかける。
どうやら自分が自信満々に案内した貴族街の店が閉店しており、申し訳なく思っているようだ。
そんな彼女の気持ちを察した倉野はフォローするように微笑みかける。
「そうですね。けど庶民街まで歩くのも悪くないですよ。ほら、夜風が気持ちよくて」
庶民街の大通り。様々な店が立ち並び、それぞれの光が煌々と道を照らしている。貴族街にはない騒がしさと人通りがどこか懐かしさと親しみやすさを感じさせた。大通りを抜けていく夜風が心地よく肌を撫でる。
レイチェルは髪を靡かせながら優しい笑みを浮かべた。
「ふふっ、実は私も楽しんでいます。クラノ様と二人きりでこうして歩くのは初めてですから」
「確かに、いつも何かに巻き込まれてバタバタしていましたからね。なんだかデートみたいで照れます」
「でぇと?」
「あー、えっと、男女が買い物や食事をすることです」
「逢瀬ということですね。そんな言い方をされると私も照れてしまいます」
そう言いながらもレイチェルは嬉しそうな表情を浮かべる。
そんな話をしていると食料品店に辿り着いていたらしくレイチェルが倉野の手を引いた。
「あ、こちらですよ」
手のひらから伝わる体温に動揺しながらも倉野はついていく。
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