異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

倉野の心当たり

　確かに彼の言う通りこれからすべきことは戦闘ではなく交渉だ。戦闘能力よりも話術が求められる。
　この中ではレオポルトの立場と経験が最も有力だが、元々は一人の兵として戦っていた男。交渉ごとに特化しているわけではない。
　それを踏まえた上でノエルが聞き返す。

「そう言われるとそうかもしれないけど、都合よくそんな人間がいるかしら？　それにある程度信頼できて、同じ目的を持ってないと引き入れるわけにはいかないわよ」

　ノエルに同意するようにレオポルトも頷き口を開いた。

「ああ、そうだな。確かに交渉役は必要だ。かといって誰でもいいわけではない。ノエル・マスタングの言うように信頼と目的意識が必須になる。ジュドーを連れてくればいいのだが、ワシの代わりを務められるのは奴しかおらんんしな」

　悩ましい議題である。
　探しているのは強い人間ではなく、交渉の上手い人間。可能ならある程度の地位を持った人間が好ましい。各国の要人を相手にするのだから肩書きは重要だ。
　その上で世界平和を望む者。
　倉野は思考をまとめながら呟いた。

「交渉か・・・・・・名前は知られている方がいいか」

　その呟きを聞いていたリオネがふと思いついたことをそのまま言葉にする。

「交渉といえば商人の方々ですよね。アルダリンさんの護衛をしている上で何度か交渉の場にも同席しましたが、さながら商人同士の一騎打ちといった感じでしたよ」
「確かに商人にとって商談は戦いですもんね。僕も働いてる時は電話越しに交渉を・・・・・・」

　リオネの言葉に答える倉野だったが途中で言葉を止め、何かを思いついたように声を上げた。

「あ！」

　いきなりの大声に驚きながらレインが問いかける。

「どうしたんだい、クラノ」
「商人ですよ」
「交渉ごとに特化した商人を引き入れるってことかい？　確かに理にかなっているとは言えるが、そんな都合のいい者がいるかな。実力と知名度を兼ね備えた商人は忙しくしているはずだよ。ピース・リンクに参加できるかどうか」

　現実的な問題を考慮して答えるレイン。
　だが倉野の脳内には全てを兼ね備えた上で世界平和を望んでくれるであろう人物の名前が浮かんでいた。

「実力と知名度を兼ね備えた上で世界平和を望んでくれる人に心当たりがあります」
「本当かい？」

　レインが聞き返すと倉野は頷く。

「ええ、思っていたよりも早い再会になりそうです」
「もしかしてアルダリン殿という商人のことかい？　だが、彼は大きな商会の代表だと聞いている。ピース・リンクに参加する余裕があるとは思えないが」
「いえ、再会するのはアルダリンさんのことですが、心当たりは別の人です」

　レインにそう返した倉野はさらに頭に浮かんでいた人物の名前を付け足した。

「オネットさん。オネット・マッティーノさんですよ」