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連載
雷帝の起源7
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妻の死について真実を知ったエクレールはこれまで以上に持ちうる才能と能力を発揮した。
最初にした選択は防衛という戦略を捨てることである。あえて敵国に侵攻させたのちに取り囲み、地形を生かした奇襲攻撃を仕掛けた。それはこれまでのエクレールにはなかった戦略だろう。
敵国を侵攻させる為に、数十人の兵を囮にしたのだ。その上で囮となった兵ごと敵国の軍を生き埋めにしたのである。
合理的な戦略、そう言えば耳触りは良い。全体から見れば極小の被害で最大の戦果を得た。しかし、どのような結果を出したとしても守るべき存在だと考えていた兵を犠牲にしたという事実は変えられない。
すぐにでも王宮に戻るという目的を達するため、エクレールは一定の良心を捨てたのだった。
「・・・・・・不思議と心は痛まないな」
戦場から王宮に戻る途中、フォンガ車の中でそう漏らしたエクレール。その言葉の意図はわからない。だが、達観したような表情を浮かべていたと同乗していた部下が覚えていた。
「畏れながら、御英断だったと思います。あの戦場が長引けば兵は消耗していく一方だったはずです。そうなれば、もっと多くの兵が命を落としていたかも知れません。最小の犠牲だった・・・・・・私はそう思います」
慰めるように部下が語りかけると、エクレールは自嘲気味にこう返す。
「他にも方法はあった。時間をかけ防衛に徹した上で敵国の武器や食糧の補給ルートを潰せば撤退させられただろう。だが私が選んだのだ。一部の兵を切り捨て、敵を叩き伏せることをな。そう、私が選んだ・・・・・・私の目的のために。これではあの男と変わらんな。血は争えんということだ」
あの男とは言うまでもなくシュレッケンのことだ。その言葉を聞いた部下は慎重に進言する。
「お控えください、エクレール様。フォンガ車の中とはいえ、外で誰が聞いているかわかりません。不敬罪に問われればエクレール様とはいえ・・・・・・」
「不敬? どう敬えばいいというのだ。国を守るために戦っている息子の妻を脅し犯すあの男を!」
感情的に部下を怒鳴りつけるエクレール。部下は慌てて頭を下げた。
「出過ぎたことを申しました」
「いや・・・・・・すまない。お前に矛先を向けるつもりはなかった。悪いのは全てあの男・・・・・・いや、この血だ」
言いながらエクレールは自分の掌を眺める。感情を抑えきれず強く握り締めすぎていたのだろうか。掌には爪の跡があり、血が滲み出てくる。だが、痛みは感じない。こんな小さな傷が気にならないほど心が痛み、臓腑が煮え繰り返っているからだ。
怒りと悲しみを携えたエクレールが王宮へとたどり着いたのは妻の自殺理由を知った二日後である。
真っ先に向かう先は王の間。何かを考える余裕などない。良心は戦場で捨ててきた。守りたかったものを失った。
残っているのは絶望的なまでの怒り。
エクレールはその怒りを体現した。感情のままに剣を握り、有無をいわせずシュレッケンの左胸に突き立てたのである。
最初にした選択は防衛という戦略を捨てることである。あえて敵国に侵攻させたのちに取り囲み、地形を生かした奇襲攻撃を仕掛けた。それはこれまでのエクレールにはなかった戦略だろう。
敵国を侵攻させる為に、数十人の兵を囮にしたのだ。その上で囮となった兵ごと敵国の軍を生き埋めにしたのである。
合理的な戦略、そう言えば耳触りは良い。全体から見れば極小の被害で最大の戦果を得た。しかし、どのような結果を出したとしても守るべき存在だと考えていた兵を犠牲にしたという事実は変えられない。
すぐにでも王宮に戻るという目的を達するため、エクレールは一定の良心を捨てたのだった。
「・・・・・・不思議と心は痛まないな」
戦場から王宮に戻る途中、フォンガ車の中でそう漏らしたエクレール。その言葉の意図はわからない。だが、達観したような表情を浮かべていたと同乗していた部下が覚えていた。
「畏れながら、御英断だったと思います。あの戦場が長引けば兵は消耗していく一方だったはずです。そうなれば、もっと多くの兵が命を落としていたかも知れません。最小の犠牲だった・・・・・・私はそう思います」
慰めるように部下が語りかけると、エクレールは自嘲気味にこう返す。
「他にも方法はあった。時間をかけ防衛に徹した上で敵国の武器や食糧の補給ルートを潰せば撤退させられただろう。だが私が選んだのだ。一部の兵を切り捨て、敵を叩き伏せることをな。そう、私が選んだ・・・・・・私の目的のために。これではあの男と変わらんな。血は争えんということだ」
あの男とは言うまでもなくシュレッケンのことだ。その言葉を聞いた部下は慎重に進言する。
「お控えください、エクレール様。フォンガ車の中とはいえ、外で誰が聞いているかわかりません。不敬罪に問われればエクレール様とはいえ・・・・・・」
「不敬? どう敬えばいいというのだ。国を守るために戦っている息子の妻を脅し犯すあの男を!」
感情的に部下を怒鳴りつけるエクレール。部下は慌てて頭を下げた。
「出過ぎたことを申しました」
「いや・・・・・・すまない。お前に矛先を向けるつもりはなかった。悪いのは全てあの男・・・・・・いや、この血だ」
言いながらエクレールは自分の掌を眺める。感情を抑えきれず強く握り締めすぎていたのだろうか。掌には爪の跡があり、血が滲み出てくる。だが、痛みは感じない。こんな小さな傷が気にならないほど心が痛み、臓腑が煮え繰り返っているからだ。
怒りと悲しみを携えたエクレールが王宮へとたどり着いたのは妻の自殺理由を知った二日後である。
真っ先に向かう先は王の間。何かを考える余裕などない。良心は戦場で捨ててきた。守りたかったものを失った。
残っているのは絶望的なまでの怒り。
エクレールはその怒りを体現した。感情のままに剣を握り、有無をいわせずシュレッケンの左胸に突き立てたのである。
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