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雷帝の起源3

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 差し出されたカルゴノールの王女はシュレッケンに服従するように側室という肩書きを受け入れるしかない。
 そうすることでしかカルゴノールを守ることができなかったのだ。
 それによって兵糧攻めは終わり、カルゴノールは平穏の日々を取り戻す。ただ一つ、その身を差し出して国を救った王女を失って。
 それ以降、その王女は救国の聖女と呼ばれるようになっていた。
 バレンドット側も、相手が服従し王女を差し出したという結果を持って侵攻を終わらせた理由としたのである。その上で麻薬の販路は全て潰したと発表した。
 シュレッケンの利己的で邪悪な発言から端を発した侵攻は全て終了する。世界中に影響を与えるほどの長く大きい極東戦争の火種はゆっくりながらも確実に育っていた。
 そこから数年後、バレンドットは鉱山での利益と増強した戦力で更に国力を伸ばし、極東の覇者と呼ばれるようになる。
 国力を伸ばした要因は資金力と兵力なのだが、それを動かしたものは相変わらずシュレッケンの欲望だった。
 
「あの国の嗜好品を全て手に入れろ」
「奴隷の販路を手に入れろ」
「あの国の女が欲しい」

 そんなシュレッケンの言葉に従うしかなかったエクレールはいつも通りそれらしい理由を作り、様々な手で目的を達成する。
 自分のしていることが正しくないことなどわかっていた。正義などどこにもない。ただの略奪だ。
 自分には力がない。無力ゆえに悪戯に兵を疲弊させ、周囲の国に被害を及ぼす。
 いつしかエクレールはシュレッケンだけでなく自分自身をも恨み始めていた。
 けれど、シュレッケンの矛先が自分や自分が守るべき兵、国民に向くことはない。それだけがエクレールを支えていた。シュレッケンが国外のものを欲し、奪おうとしている内は本当に守りたいものは守れる。

「畏まりました」

 次第にエクレールはその言葉に抵抗を感じなくなっていた。
 そんな日々が続くバレンドット。
 エクレールの日常にも大きな変化があった。妻と二人の子供を得たのである。疲弊していくエクレールの心に寄り添う優しい妻と全てを癒してくれる子。エクレールにとってこの存在は大きなものだった。家族を守るために戦う。それだけで生きていくことができた。
 シュレッケンの欲望を叶えながらも確かな幸せを感じる日々。
 だが、その幸せはいつまでも続かなかった。
 エクレールの妻が死んだのである。心を病んでの自殺だった。
 絶望。その言葉だけがエクレールの頭の中を駆け巡る。どうしようもない喪失感。
 どうして自分を残して逝ったのか。何が妻の心を病ませたのか。立ち止まり問いかけたいことはいくらでもあった。
 しかし、エクレールは立ち止まるわけにはいかない。自分がシュレッケンの欲望を叶えなければ守れないものがある。残された子どもたちと兵と国民。
 エクレールは更に強くなることを願った。
 ここから何度も上下する人生。翻弄されることを知らずに、漠然と強さを願っていたのだ。
 
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