上 下
414 / 729
連載

雷帝の起源3

しおりを挟む
 差し出されたカルゴノールの王女はシュレッケンに服従するように側室という肩書きを受け入れるしかない。
 そうすることでしかカルゴノールを守ることができなかったのだ。
 それによって兵糧攻めは終わり、カルゴノールは平穏の日々を取り戻す。ただ一つ、その身を差し出して国を救った王女を失って。
 それ以降、その王女は救国の聖女と呼ばれるようになっていた。
 バレンドット側も、相手が服従し王女を差し出したという結果を持って侵攻を終わらせた理由としたのである。その上で麻薬の販路は全て潰したと発表した。
 シュレッケンの利己的で邪悪な発言から端を発した侵攻は全て終了する。世界中に影響を与えるほどの長く大きい極東戦争の火種はゆっくりながらも確実に育っていた。
 そこから数年後、バレンドットは鉱山での利益と増強した戦力で更に国力を伸ばし、極東の覇者と呼ばれるようになる。
 国力を伸ばした要因は資金力と兵力なのだが、それを動かしたものは相変わらずシュレッケンの欲望だった。
 
「あの国の嗜好品を全て手に入れろ」
「奴隷の販路を手に入れろ」
「あの国の女が欲しい」

 そんなシュレッケンの言葉に従うしかなかったエクレールはいつも通りそれらしい理由を作り、様々な手で目的を達成する。
 自分のしていることが正しくないことなどわかっていた。正義などどこにもない。ただの略奪だ。
 自分には力がない。無力ゆえに悪戯に兵を疲弊させ、周囲の国に被害を及ぼす。
 いつしかエクレールはシュレッケンだけでなく自分自身をも恨み始めていた。
 けれど、シュレッケンの矛先が自分や自分が守るべき兵、国民に向くことはない。それだけがエクレールを支えていた。シュレッケンが国外のものを欲し、奪おうとしている内は本当に守りたいものは守れる。

「畏まりました」

 次第にエクレールはその言葉に抵抗を感じなくなっていた。
 そんな日々が続くバレンドット。
 エクレールの日常にも大きな変化があった。妻と二人の子供を得たのである。疲弊していくエクレールの心に寄り添う優しい妻と全てを癒してくれる子。エクレールにとってこの存在は大きなものだった。家族を守るために戦う。それだけで生きていくことができた。
 シュレッケンの欲望を叶えながらも確かな幸せを感じる日々。
 だが、その幸せはいつまでも続かなかった。
 エクレールの妻が死んだのである。心を病んでの自殺だった。
 絶望。その言葉だけがエクレールの頭の中を駆け巡る。どうしようもない喪失感。
 どうして自分を残して逝ったのか。何が妻の心を病ませたのか。立ち止まり問いかけたいことはいくらでもあった。
 しかし、エクレールは立ち止まるわけにはいかない。自分がシュレッケンの欲望を叶えなければ守れないものがある。残された子どもたちと兵と国民。
 エクレールは更に強くなることを願った。
 ここから何度も上下する人生。翻弄されることを知らずに、漠然と強さを願っていたのだ。
 
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。