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エスエ帝国皇帝アミュレット・ヴィエ・エスエール
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驚きながらも倉野はふとこう思った。
自分以外の人たちは知っていたのだろうか、と。疑問に抗えずにグランダー伯爵の表情を窺うと一切動揺していない。レオポルトも同様であった。
しかし、レインだけは明らかに驚き目を見開いている。
どうやら彼もまた倉野と同じく何も知らなかったようだ。
聞きたいことはあるもののこの空間、この空気で勝手に質問するわけにもいかない。
なんとか言葉を堪えて黙っていると皇帝が口を開いた。
「エスエ帝国皇帝、アミュレット・ヴィエ・エスエールだ。先ずは謝辞を・・・・・・この度の活躍感謝しよう」
最低限の文字数で贈られる低音の感謝。
皇帝の言葉に合わせるように頭を下げるグランダー伯爵とレオポルトたち。その頃には倉野も空気を読み取り同時に頭を下げた。
全員が謝辞を受け止めたところで皇帝が更に言葉を続ける。
「なるほど、話に聞いていた通りグランダー伯爵以外の功労者は全て他国の者だったか。それぞれの国には改めて人を送り正式に挨拶をさせてもらおう。さて・・・・・・クラノ殿と言ったな」
「は、はい」
急に名前を呼ばれた倉野が慌てて答えた。すると皇帝は厳しい表情のまま倉野の目を眺め頷く。
「流石に良い目をしているな。最大の功労者は其の方だと聞いている。この度の活躍に対して何を望む?」
どうやら、今回の事件を解決したご褒美は何が良いのかと聞かれているらしい。欲しいものか、と倉野は一瞬だけ考えて口を開いた。
「欲しいものなどありません。ぼ、私は自分が守りたいもののために戦っただけです」
それが倉野の本心である。しかしその答えは正解ではなかったらしい。
今まで一言も話さなかった貴族たちが小さな声で口々に呟き始める。
「陛下のお言葉に・・・・・・」
「何も受け取らないというのか」
「有り難く受け取るべきではないのか」
聞こえてくる言葉でこの世界での常識を察する倉野。皇帝から何が欲しいかと聞かれた時に、何もいらないと答えるのはどうやら無礼に当たるのだろう。それは皇帝の言葉を無駄にすること。
気付いた倉野だったが既に時は遅く、貴族たちの視線が一層鋭くなった。
もしかすると皇帝の機嫌を損ねたかもしれないと顔を上げて表情を窺う倉野。確かに眉間の皺が深くなっているように見えた。
やってしまったか、と倉野が身構えると皇帝は勢いよく立ち上がる。そしてこう叫んだ。
「なんという態度だ!」
言葉が心臓に突き刺さったのではないかと錯覚するほどの勢いである。一瞬体をこわばらせた倉野だったがその言葉が自分に向けられたものではないとすぐに分かった。
皇帝は倉野たちの左右にいる貴族たちに対して怒鳴っていたのである。
「良いかよく聞け。此の者たちがいなければ今この場には誰も立っていない。我が国を救ったのは爵位でもなければ、帝位でもないのだ。この国は私の血であり肉・・・・・・私を救ってくれたと考えて相違ない。此の者たちを非難することは私への非難と心せよ。全員この場から離れ、頭を冷やすがよい」
なるほど、こういう人なのかと倉野は理解した。若いながらも見るべきものが見え、言うべき事が言える。この男こそエスエ帝国の皇帝、アミュレット・ヴィエ・エスエール。
自分以外の人たちは知っていたのだろうか、と。疑問に抗えずにグランダー伯爵の表情を窺うと一切動揺していない。レオポルトも同様であった。
しかし、レインだけは明らかに驚き目を見開いている。
どうやら彼もまた倉野と同じく何も知らなかったようだ。
聞きたいことはあるもののこの空間、この空気で勝手に質問するわけにもいかない。
なんとか言葉を堪えて黙っていると皇帝が口を開いた。
「エスエ帝国皇帝、アミュレット・ヴィエ・エスエールだ。先ずは謝辞を・・・・・・この度の活躍感謝しよう」
最低限の文字数で贈られる低音の感謝。
皇帝の言葉に合わせるように頭を下げるグランダー伯爵とレオポルトたち。その頃には倉野も空気を読み取り同時に頭を下げた。
全員が謝辞を受け止めたところで皇帝が更に言葉を続ける。
「なるほど、話に聞いていた通りグランダー伯爵以外の功労者は全て他国の者だったか。それぞれの国には改めて人を送り正式に挨拶をさせてもらおう。さて・・・・・・クラノ殿と言ったな」
「は、はい」
急に名前を呼ばれた倉野が慌てて答えた。すると皇帝は厳しい表情のまま倉野の目を眺め頷く。
「流石に良い目をしているな。最大の功労者は其の方だと聞いている。この度の活躍に対して何を望む?」
どうやら、今回の事件を解決したご褒美は何が良いのかと聞かれているらしい。欲しいものか、と倉野は一瞬だけ考えて口を開いた。
「欲しいものなどありません。ぼ、私は自分が守りたいもののために戦っただけです」
それが倉野の本心である。しかしその答えは正解ではなかったらしい。
今まで一言も話さなかった貴族たちが小さな声で口々に呟き始める。
「陛下のお言葉に・・・・・・」
「何も受け取らないというのか」
「有り難く受け取るべきではないのか」
聞こえてくる言葉でこの世界での常識を察する倉野。皇帝から何が欲しいかと聞かれた時に、何もいらないと答えるのはどうやら無礼に当たるのだろう。それは皇帝の言葉を無駄にすること。
気付いた倉野だったが既に時は遅く、貴族たちの視線が一層鋭くなった。
もしかすると皇帝の機嫌を損ねたかもしれないと顔を上げて表情を窺う倉野。確かに眉間の皺が深くなっているように見えた。
やってしまったか、と倉野が身構えると皇帝は勢いよく立ち上がる。そしてこう叫んだ。
「なんという態度だ!」
言葉が心臓に突き刺さったのではないかと錯覚するほどの勢いである。一瞬体をこわばらせた倉野だったがその言葉が自分に向けられたものではないとすぐに分かった。
皇帝は倉野たちの左右にいる貴族たちに対して怒鳴っていたのである。
「良いかよく聞け。此の者たちがいなければ今この場には誰も立っていない。我が国を救ったのは爵位でもなければ、帝位でもないのだ。この国は私の血であり肉・・・・・・私を救ってくれたと考えて相違ない。此の者たちを非難することは私への非難と心せよ。全員この場から離れ、頭を冷やすがよい」
なるほど、こういう人なのかと倉野は理解した。若いながらも見るべきものが見え、言うべき事が言える。この男こそエスエ帝国の皇帝、アミュレット・ヴィエ・エスエール。
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