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願いを繋ぐ握手

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 フォンガ車に乗り込み、走り出すとすぐにレオポルトが口を開く。

「やはり凄いなエスエ帝国は。貴族街だけでなく庶民街すらもビスタ国とは全く違う。豊かなのはもちろんだが、人々に活気がある。どうしてかわかるか?」

 その場にいる誰に話しかけているのかわからない言葉だった。もしかすると自分自身に話しかけているのかもしれない。
 レオポルトの言葉に反応したのはグランダー伯爵だった。

「人々に活気ですか・・・・・・何故かと考えたことはなかったですね。私が伯爵位を継いだ時には既に今と同じような環境でしたし」
「そうか・・・・・・恵まれている国だな」

 そう呟いてからレオポルトは我に帰ったように首を横に振る。

「ああ、すまない。皮肉のつもりはなかった、ただ本心からそう思っただけだ。ワシが物心ついた時のビスタ国は最悪の状況だったと言っていい。周囲の国に狙われ、支配されるか国ごと消えるか・・・・・・そんな選択肢を突きつけられていた」

 語るレオポルトの表情はいつになく悲しげだった。思い出に浸っているのかもしれない。弱かった頃の自分に、救えなかったものに、自分が奪った命に浸り、こう考えてしまう。もしもビスタ国がエスエ帝国のようであれば大切なものを失うことなどなかったかもしれない。自分が他人の命を奪うことなどなかったかもしれない。
 そう考えている途中でレオポルトは無性におかしくなり、声を出して笑ってしまう。

「はっはっは、まさかワシがこんなことを言うとはな」

 いきなり笑い出したレオポルトにノエルが目を細めて視線を送った。

「どうしたのよ、レオポルトさん。いきなり笑い出して・・・・・・もしかしてボケちゃったの?」
「そんな歳ではない。ただ少し夢を、希望を抱いてしまっただけだ。平和な世界という夢をな」

 言いながらレオポルトは倉野を一瞥する。残酷な世界だと受け入れ、戦わなければ得られない、奪わなければ奪われると思い生きてきた。いや、事実世界は残酷である。だが目の前にいる男はその現実を変えると言った。そしてそれを叶えるほどの力を持っている。
 自分が強くなるにつれ捨ててしまった夢の続きを見せてくれたのだった。
 そんなレオポルトにグランダー伯爵が優しく語りかける。

「奇遇ですね。私もレオポルト殿と同じような夢を持っていますよ。特に最近は」
「ふっ、考えることは同じようですな」
「ええ。ところで先ほど仰られていた人々に活気がある理由とはなんでしょうか? 後学の為にお聞かせ願いたい」
「簡単なことです。この国には飢えがない。ビスタ国は砂の国・・・・・・育つ植物も生きていける魔物も限られている。他国に頼らなければ生きていけない状況というわけですよ。だが、今回のことはそんな状況を打開するきっかけになるかもしれない。そんな期待を抱いています」

 グランダー伯爵に対して丁寧な口調で話すレオポルトの表情はいつも通り勇ましく見えた。
 伯爵はそんなレオポルトに優しく頷く。

「ええ、私も良い関係を築けることを願っていますし、どのような結果であってもグランダー家にできることであれば協力させていただきます」
「感謝いたします」

 そう答え、レオポルトは伯爵と固い握手を交わした。二つの国が強く繋がることを願って。
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