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シラムとツクネ

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 おそらく刺繍の一部をレイチェルが施したのだろうとノエルは推測していた。
 倉野が礼服を受け取ると、伯爵がレイチェルやリオネ、ノエルを部屋の外に誘導する。

「さぁ、部屋を出ていようか。クラノ殿、準備ができたら大広間に来てくれるかい?」

 全員が部屋を出ていくと倉野は礼服に着替え始めた。
 倉野が元いた世界の服と比べれば最高の着心地とは言えないまでも、上質な布であることがわかる。厚手の布に豪華な装飾が施されているため見た目以上に重く感じた。
 これも貴族が背負う重みの一部なのだろうか、と改めて服装について考えさせられる。
 着替え終わった倉野が部屋を出ると扉の前にシラムが立っていた。
 グランダー伯爵家に仕える執事である。

「あれ、シラムさん」

 倉野が呼びかけるとシラムは軽く頭を下げて口を開いた。

「大変お似合いですよクラノ様。大広間までご案内させていただきます」
「ありがとうございます。あ、そうだ」

 シラムとの会話の途中で何かを思いついたような表情を浮かべた倉野はもう一度部屋の扉を開く。

「シラムさん、少しお願いがあるんですけどいいですか?」
「はい、何でしょう。私に可能なことであればどの様なことでも承りますよ」
「僕が城に言っている間ツクネを見ていてくれませんか?」
「ツクネ・・・・・・ああ、あの可愛らしいお連れ様ですか。ええ、構いませんよ。よく眠っている様ですからね」

 倉野が眠っていたベッドの上に置かれた鞄の中から、上体だけを出して仰向けで眠るツクネの姿を確認しながらシラムは頷いた。

「この服にあの鞄は似合いませんし、皇帝陛下の前に連れていくわけにもいきませんからね。だからと言って一人・・・・・・一匹? にするのも不安なのでシラムさんに見ていただけると安心ですよ。ありがとうございます」
「いえいえ、これくらいのことであればいくらでも。クラノ様はいずれ私の主人になられるかもしれない方ですからね」
「な、何言ってるんですか」
「老いぼれジョークですよ。さて、それでは私はここでお連れ様を見ておきますので、大広間へはお一人で向かっていただいてもよろしいですか?」

 軽く笑いながらシラムが話す。
 倉野はそれを頷いて答え、大広間へと向かった。
 もはや倉野にとってグランダー伯爵家は慣れたものである。向かいたい場所があれば迷わずに辿り着けるほどにはなっていた。
 大広間に辿り着き中に入ると伯爵たち以外にも見慣れた顔が並んでいる。

「あれ、レオポルトさん、レインさん」

 大広間の扉を開きながら倉野がそう呼びかけるとレオポルトが手を挙げて反応した。

「目覚めたばかりと聞いていたが思っていたよりも元気そうだな。大体の話は聞いたか?」
「はい、戦いの後どうなったか、これからどうするのか・・・・・・その上で自分がどうするべきか理解しているつもりです」
「そう気負うことはない。誰もが自分の正義に従って行動するだけだ。この国の人間はこの国のために、ワシは自分が守りたいもののために。レイン・ネヴァーやノエル・マスタングもそうするはずだ」

 言いながらレオポルトは口角を上げて見せる。
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