異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

伯爵からの本題

　そんな中、追撃するようにノエルが言葉を続ける。

「言いにくいからって話を逸らしてちゃ進まないわよ。大丈夫、クラノは伯爵様の事情くらい汲んでくれるわ。そうよね？」

　急に話を振られた倉野は戸惑いながらも頷いた。

「あ、はい。もちろんですよ。何かあったんですか？」

　ノエルに押される形で倉野が問いかけると伯爵は再び困った様な表情で口を開く。

「ああ、実はね・・・・・・陛下がクラノ殿と会いたいと仰っているんだ」

　伯爵がそう話すと倉野よりも先にリオネとレイチェルが驚きの声を上げた。

「えええええええっ？」

　しかし当の倉野は伯爵の言葉をうまく飲み込めずに聞き返す。

「陛下？」
「ああ、陛下だよ」

　伯爵から返ってきた言葉をゆっくりと噛み締めるように受け止め、倉野はもう一度聞き返した。

「陛下ってこの国の？」
「ああ、その通り。皇帝陛下だよ」
「えええええええっ？」

　先ほどのリオネたちの様な反応をした倉野にノエルが苦笑する。

「反応が遅いわよ。普通陛下って聞いた時点で気づくでしょう」
「わかりませんよ、そんなの。陛下なんて言葉身近にないんですから」

　慌てて反論する倉野。だが、その反面納得していた。伯爵がした先ほどの当たり障りのない会話も困った様な表情もこの話をしなければという気持ちからだったのだろう。
　皇帝と会うというのはこの国の人間にとって誉れであっても目立ちたいとは思っていない倉野からすれば好ましくないイベントだ。
　そんな倉野の性格を理解している伯爵。けれど皇帝の言葉を無視するわけにもいかず板挟みだったはずだ。
　
「すまないね、クラノ殿。できる限り隠そうとはしたんだが、多数の目撃者がいてね。陛下の耳に入った様なんだ。力及ばず申し訳ない」
「そんな、謝らないでください。あれだけ派手に戦ってしまったんですから見られていても仕方ないですよ。伯爵が謝ることじゃないです。むしろ気を遣わせてしまってすみません。それに、僕もある程度覚悟はしていたんです」

　倉野がそう答えるとノエルが首を傾げる。

「覚悟？」
「はい、この世界に無関係ではいられないという覚悟です」
「いや・・・・・・今更？」

　呆れたように言い放つノエル。倉野なりに一大決心の言葉だったのだが、思っていたよりも軽い反応に戸惑いを隠せない。

「え、今更って。今までは出来る限り平穏に暮らそうと思っていたんですけど」
「何言ってんのよ。レオポルトさんからもお嬢様からもリオネからも色んな話を聞いてるわ。リオネを守るためにその町で一番強い冒険者と一騎討ち。伯爵家の騒動を収める。ビスタ国とイルシュナの戦争を二人だけで止める。イルシュナで商会同士の争いを解決。その後は私と会って、無人島でドラゴンと契約したり、この国で犯罪者ギルドを潰したり、オランディを救ったりしてきてるんだから無関係なわけないじゃない。無関係だと思っているなら驚きだわ」

　言いながらノエルは悪戯な微笑みを浮かべた。