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許せない相手

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 そう、ジルトールの思想は最初から破綻している。自分の家族が死んだ事は許せず、自分の目的のために死者が出る事は仕方がない。明らかな矛盾だ。
 けれど人間とはそういうもの。自分に降りかかる火の粉を熱いと大げさに騒ぎ、他人に降りかかる火の粉をそれほどでもないだろうと笑う。
 ジルトールは自分の考えが矛盾していることなどわかっていた。どれだけ自分を正当化しようともその矛盾がどこまでもついてまわる。これが行動は八つ当たりなのだと理解していた。
 レオポルトの正論を受けたジルトールは感情を露わにし言い返す。

「だからなんだと言うんだ。分かっているさ、発言が矛盾していることなど。だがな、どうしたって許せないんだ。俺の家族を奪ったバレンドットも弱者が虐げられる世界も笑って生きている奴らも・・・・・・何もかも!」

 そう叫び、今にも飛びかかってきそうなジルトール。溢れ出した感情が涙に変わりこぼれ落ちそうな気配すら感じた。
 これが彼の本心なのだろう。世界を変えたい、そんなものは自分を正当化する理由に過ぎない。本当は自分の苦しみを吐き出したいだけだった。
 ジルトールの本心を聞いた倉野がこう語りかける。

「貴方が許せないのは自分じゃないですか? 愛する家族を守れなかった自分が許せなくて、強さを求めた。失った悲しみや苦しみを受け止めきれずに他人を傷つけることを選んだんです。誰かの恨みを買い、殺されるために・・・・・・自分を殺すために」

 語りかける倉野の表情は悲しみで溢れていた。ジルトールの過去を憐んだのではなく、ただ目の前の現実が悲しい。戦争とは人間を狂わせ、終わったあとも憎しみを連鎖させる。そんな当然のことを目の当たりにし、悲しみ以外に自分の気持ちを表現できなかったのだ。

「くっ・・・・・・」

 倉野の言葉を聞いたジルトールは途端に言葉を失い、その場に膝をつく。彼は死に場所を探していたのだろう。家族を失い、世界に絶望したジルトールは復讐という名目で他者の命を奪っていった。そうすることで自分が命を狙われいつかは殺されるだろう。そこで自分が殺されれば家族のために死んだと言えなくもない。おそらく愛する家族に命を捧げたかったのだろう。一番憎い自分を殺してしまいたかったのだろう。
 ジルトールは倉野に本心を言い当てられ、これ以上話すことがなくなってしまった。
 全ての戦力を失い、自分の本心を当てられたジルトールが望むのは死である。もはや会話など不要だった。

「なんともスッキリせん幕切れだな」

 生気を失ったジルトールを見たレオポルトは釈然としない表情で呟く。
 これもまた不完全な世界が産んだ悲しみ。もちろんジルトールの行動は間違っている。被害者や遺族からすると殺したいほど憎い対象だ。どんな過去があろうと、どれほど悩んでいようと正当化されるものではない。
 しかし、レオポルトはこれ以上ジルトールを責める気にはなれなかった。死にたがっている相手に何を言っても無駄であり、思想を変える事は出来ない。そんな相手を責めても意味がないだろう。
 悪を倒して解決。現実はそう簡単にいかなかった。
 
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