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兵と民
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それはジルトールに立場を思い知らせるという意図の言葉だった。お前のことを知っているぞ、と突きつけることで上下をはっきりさせる。
レオポルトの意図を察した倉野は頷き、スキル説明を発動させた。
「対象はジルトール・パニッシュメントがネメシスを結成した理由。ジルトールはカルゴノールという東の国で生まれた。五年前までカルゴノールは隣の国バレンドットと戦争を続けており、その戦争を極東戦争と呼ぶ。極東戦争中にバレンドットはカルゴノールに対し大規模な攻撃を仕掛けた。その侵攻によってジルトールが暮らしていた街は焼き払われ、妻と生まれたばかりの娘を失う。ジルトール自身も顔の半分に火傷を負い、バレンドットに対しての復讐を誓った。しかし、その後カルゴノールとバレンドットは和解することとなり、ジルトールは復讐相手を失う。そんな時、同じ境遇を持つエイターと出会い、二人でネメシスを結成した」
倉野の言葉を聞いたジルトールは戸惑いを見せる。
「なっ・・・・・・どうしてそれを」
戸惑い、言葉を詰まらせるジルトールに対してレオポルトはどこかつまらなそうな表情を浮かべてから語りかけた。
「お前さんの過去を知っている理由など今はどうでもよかろう。大切なのは知っているという事実だけだ。聞けばなるほど、と同情の余地はある。ワシが同じ境遇だったとしても戦おうとするだろうな。だが、その行動を認める事は出来ん」
「同情だと? ふざけるな! どこまでも上から・・・・・・自分たちの行動を認めてもらいたいなどと思っていない! 戦いを認めないというのか、命を奪うことが認められないというのなら、何故俺の家族が死ななければならなかったんだ!」
必死に吠えるジルトール。おそらくその疑問を自分に投げかけ続けたのだろう。どうして自分の家族が死ななければならなかったのか。戦うことも他人を殺すことも、否定され続け自らも否定し続けてきた。その上でジルトールは世界を変えようとしてきたのである。
そんな必死の叫びに対してレオポルトは同じ熱量で答えた。
「認めないと言ったのは、お前さんが民を殺したからだ。自らの願いのために戦うことを否定はしない。戦わなくては何も掴めない世界だ。ワシも戦い続けてきた。この手で終わらせた命は一つや二つではない」
「だったら!」
「だがな、武器を持たぬ相手を殺した事はない。お互いに自分の正義のために戦うと決めた兵士だった。もちろん、殺したことを正当化するつもりはないが、それでもそれは戦いの結果である。お前さんがしているのは戦いではない、殺戮だ。気に入らないことがあるのならば正々堂々と戦え、国を壊したいと願うのならば権力者のみを狙え。お前さんだっていつかは死ぬ・・・・・・あの世に行った時、そんな汚れた手で子どもを抱きしめる事はできるのか?」
レオポルトに問われたジルトールは自分の掌に視線を落とす。その手は酷く汚れたいた。いや実際に汚れているのではない。だが、ジルトールの目には赤黒くこべり付いた血が、名前も知らぬ誰かの恨みが、涙が映っていた。
けれどそんな事は知っている。全ての泥を被る覚悟でジルトールはここにいた。
「残念だな、そんな言葉くらいで俺の心は動かない。全てを捨ててでも戦うと決めた。仮初の平和に甘んじている民も国を動かしている権力者と変わらん!」
「ならばお前の妻も娘も同じではないか? 仮初の平和とやらに甘んじていたと言えよう。それでいいのか? 死んだ家族を咎人と呼んでいるのはお前自身だぞ」
レオポルトの意図を察した倉野は頷き、スキル説明を発動させた。
「対象はジルトール・パニッシュメントがネメシスを結成した理由。ジルトールはカルゴノールという東の国で生まれた。五年前までカルゴノールは隣の国バレンドットと戦争を続けており、その戦争を極東戦争と呼ぶ。極東戦争中にバレンドットはカルゴノールに対し大規模な攻撃を仕掛けた。その侵攻によってジルトールが暮らしていた街は焼き払われ、妻と生まれたばかりの娘を失う。ジルトール自身も顔の半分に火傷を負い、バレンドットに対しての復讐を誓った。しかし、その後カルゴノールとバレンドットは和解することとなり、ジルトールは復讐相手を失う。そんな時、同じ境遇を持つエイターと出会い、二人でネメシスを結成した」
倉野の言葉を聞いたジルトールは戸惑いを見せる。
「なっ・・・・・・どうしてそれを」
戸惑い、言葉を詰まらせるジルトールに対してレオポルトはどこかつまらなそうな表情を浮かべてから語りかけた。
「お前さんの過去を知っている理由など今はどうでもよかろう。大切なのは知っているという事実だけだ。聞けばなるほど、と同情の余地はある。ワシが同じ境遇だったとしても戦おうとするだろうな。だが、その行動を認める事は出来ん」
「同情だと? ふざけるな! どこまでも上から・・・・・・自分たちの行動を認めてもらいたいなどと思っていない! 戦いを認めないというのか、命を奪うことが認められないというのなら、何故俺の家族が死ななければならなかったんだ!」
必死に吠えるジルトール。おそらくその疑問を自分に投げかけ続けたのだろう。どうして自分の家族が死ななければならなかったのか。戦うことも他人を殺すことも、否定され続け自らも否定し続けてきた。その上でジルトールは世界を変えようとしてきたのである。
そんな必死の叫びに対してレオポルトは同じ熱量で答えた。
「認めないと言ったのは、お前さんが民を殺したからだ。自らの願いのために戦うことを否定はしない。戦わなくては何も掴めない世界だ。ワシも戦い続けてきた。この手で終わらせた命は一つや二つではない」
「だったら!」
「だがな、武器を持たぬ相手を殺した事はない。お互いに自分の正義のために戦うと決めた兵士だった。もちろん、殺したことを正当化するつもりはないが、それでもそれは戦いの結果である。お前さんがしているのは戦いではない、殺戮だ。気に入らないことがあるのならば正々堂々と戦え、国を壊したいと願うのならば権力者のみを狙え。お前さんだっていつかは死ぬ・・・・・・あの世に行った時、そんな汚れた手で子どもを抱きしめる事はできるのか?」
レオポルトに問われたジルトールは自分の掌に視線を落とす。その手は酷く汚れたいた。いや実際に汚れているのではない。だが、ジルトールの目には赤黒くこべり付いた血が、名前も知らぬ誰かの恨みが、涙が映っていた。
けれどそんな事は知っている。全ての泥を被る覚悟でジルトールはここにいた。
「残念だな、そんな言葉くらいで俺の心は動かない。全てを捨ててでも戦うと決めた。仮初の平和に甘んじている民も国を動かしている権力者と変わらん!」
「ならばお前の妻も娘も同じではないか? 仮初の平和とやらに甘んじていたと言えよう。それでいいのか? 死んだ家族を咎人と呼んでいるのはお前自身だぞ」
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