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倉野が持つ力の本質

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 倉野の状態はともかく、初めてブレッドが大きな隙を見せている。それを逃さず、倉野はスキル神速を発動した。倉野の速度が大幅に上昇し、相対的に時が止まったように見えるスキル神速を利用することで時間を稼ぎ、乗り込む場所を探す。
 だが、頭の上にも顔にも首筋にも乗り込む場所は見当たらない。

「どういうことだ・・・・・・乗り込む場所がない」

 そう呟きながら倉野はブレッドの大きな背中を見渡したが、それらしきものはなかった。
 予想外の造りに焦る倉野だったが、慌ててスキル説明を発動する。
 対象は、ブレッドの乗組口だ。
 スキルによって表示された画面に映し出されたのはさらに予想外の答えである。

「操縦者が乗った時点で乗組口が消える・・・・・・つまり、外から乗り込むことはできないってことか」

 その答えは倉野にとって絶望的だった。物理攻撃も魔法攻撃も無効化するブレッドを破壊することはできない。普通の人間よりも魔法に詳しいイスベルグが言っているのだから間違いないだろう。そんなブレッドを止める唯一の手段が乗組口から内部に入り込み操縦者ジルトールを倒すことだった。
 その唯一の手段を失った倉野は同様からスキル神速を解除してしまう。
 動き出したブレッドは上体を起こし、体を揺らした。その揺れを警戒していなかった倉野はそのまま空中に投げ出される。

「くっ・・・・・・」

 なんとかブレッドの体を掴もうと手を伸ばしたが、ギリギリ届かず地面に向かって落下していった。
 落下する倉野の頭の中はまとまらない考えで散らかり、着地のことなど考えられない。
 破壊もできない、内部に入り込むこともできないとなればブレッドを止めることはできなくなる。その上、この一連の作戦で危機感を感じたブレッドは倉野たちを無視してエスエ帝国に攻撃を仕掛けるかもしれない。自分たちがしたことはエスエ帝国の崩壊を早めただけ。次の手を考えなければ。そんな思いが倉野の心を押しつぶそうとしていた。

「もう終わるのか、クラノ」

 落下する倉野に声をかけたのはイスベルグである。

「イスベルグさん・・・・・・終わりたくないですよ・・・・・・でも、もう僕の力じゃあ・・・・・・」
「お前の力? では問おう。お前の力とはなんだ?」
「僕の力・・・・・・それはスキルとイスベルグさんから借りる魔法と・・・・・・」

 自信なさげに答える倉野。するとイスベルグはいつになく優しい声色で語りかけた。

「そんなものはお前の一部に過ぎない。いや私に言わせれば強さこそ力だ。純粋な戦闘力を強さ、力と呼んでいた。だがお前は私にないものを持っている」
「イスベルグさんにない力?」
「他人と心を通わせる力だ。他人のために流してきた汗と血が、経験がお前の力の本質・・・・・・聞こえないか、お前を呼ぶ優男の声が」

 イスベルグの言葉を聞いた倉野の頭にはあの男の顔が浮かぶ。イスベルグが優男と呼ぶ男は一人しかいない。倉野と共に様々な戦場を駆け抜けた男。
 今、エスエ帝国にいるはずもない男だ。

「クラノ!」
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