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決まっている天秤の傾き
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「うぐっ!」
防御もできずに腹部を蹴られたノエルは苦痛の声を漏らしながら後方へと飛ばされ地面に叩きつけられる。
その姿が目に入ったのか倉野が強く呼びかけた。
「ノエルさん!」
ノエルに声をかける倉野だが、駆け寄ることなどできない。てを離せない状況だった。
ノエルがエイターと戦い始めた頃、倉野もまたブレッドとの戦闘を続けていたのである。
どうすれば止められるのか。そう考えながらブレッドの攻撃を自分に向けさせていた。通用しないと分かりながらもスキル豪腕の一撃を足に打ち込み、ブレッドの蹴りや殴りを回避する。
その動きを繰り返していた。少しでも気を抜くとブレッドの一撃を受けてしまう。だが、そうすることでブレッドは帝都に向けて攻撃を開始することはできない。
時間稼ぎに過ぎないことは倉野にも分かっていた。突破口を見つけなければいつかは押し切られてしまう。そんな状況の中、ノエルが攻撃を受けて地面に叩きつけられたのだった。
倉野の声を聞いたノエルは腹部を貫く痛みに耐えながら返答する。
「だ、大丈夫よ、クラノ。効いてないわ」
その言葉が嘘であることくらい倉野にもわかった。痛みに歪む表情と荒い呼吸に冷や汗。
防御も出来ずに攻撃を受けたのだから当然だ。けれど倉野には駆け寄れない理由がある。
今、倉野がスキル神速を発動しノエルを助けようとすればブレッドは倉野の存在を無視して帝都を破壊するはずだ。あくまでもネメシス側が倉野たちを格下だと決め込み、エスエ帝国からの返答を待つ間の暇つぶしだと考えているからこそ生まれている時間に過ぎない。
それを理解しているノエルは倉野に助けを求めず、倉野も助けにいけないのである。
無視できない存在だと見せつけなければ、ブレッドの意識を完全に自分に向けさせることはできない。
ブレッドの攻撃を回避しながら倉野はノエルの動きを見守る。
するとブレッドがノエルに近寄り、こう言い放った。
「私の背後をとったことで油断したか? 勝利を確信したか? 世界はそんなに甘くない。勝利とはこのように得るものだ。わかるか? 生温い世界で生きてきた女よ」
そう言いながらエイターはノエルのさらに後方を指差す。そこにいるのは他のネメシス団員だった。
ネメシス団員たちは全員で祈るように両手を合わせている。
「まさか・・・・・・相手の動きを止める魔法を・・・・・・」
エイターの指に視線を誘導されたノエルはネメシス団員たちを見ながらそう呟いた。
それを聞いたエイターは余裕そうに口角をあげる。
「察しは良いようだな、女。その通りだ。今、お前の体は魔力の鎖で縛られている。指一本動かすことはできないだろう」
「くっ・・・・・・一人で戦うって言ったはずじゃない。随分、肝が小さいのね。この卑怯者」
「それが甘いと言っている。どのような矜恃を持っていたとしても死ねば終わりだ。それに約束を違えているつもりはない。こうして一人で相手をしているだろう? 奴らは祈っているだけだ、お前の死をな」
言いながらエイターは右足でノエルの顔を踏みつけた。その重さが頭蓋骨にのしかかり、ノエルは地面に頭を打ち付ける。
「うっ・・・・・・クソ野郎」
「どこまでも口の減らん女だな。しかし、それもここで終わる。案ずるな、祈りくらいは捧げてやろう」
エイターは改めて大剣を構えた。
そんなノエルの状況を見た倉野は心の中にある天秤に問いかける。ブレッドの意識を引き続け帝都を守るべきか。全てを捨ててでもノエルを助けるべきか。いや、最初から答えなど決まっている。
帝都を救うことなど後から考えれば良い。今はノエルを助ける。自分についてきてくれたノエルを見捨てることなどあってはならないのだと。
「スキル神速・・・・・・発ど」
覚悟を決めた倉野がそう唱えかけた瞬間、声が響いた。
「待て! ワシが行く!」
防御もできずに腹部を蹴られたノエルは苦痛の声を漏らしながら後方へと飛ばされ地面に叩きつけられる。
その姿が目に入ったのか倉野が強く呼びかけた。
「ノエルさん!」
ノエルに声をかける倉野だが、駆け寄ることなどできない。てを離せない状況だった。
ノエルがエイターと戦い始めた頃、倉野もまたブレッドとの戦闘を続けていたのである。
どうすれば止められるのか。そう考えながらブレッドの攻撃を自分に向けさせていた。通用しないと分かりながらもスキル豪腕の一撃を足に打ち込み、ブレッドの蹴りや殴りを回避する。
その動きを繰り返していた。少しでも気を抜くとブレッドの一撃を受けてしまう。だが、そうすることでブレッドは帝都に向けて攻撃を開始することはできない。
時間稼ぎに過ぎないことは倉野にも分かっていた。突破口を見つけなければいつかは押し切られてしまう。そんな状況の中、ノエルが攻撃を受けて地面に叩きつけられたのだった。
倉野の声を聞いたノエルは腹部を貫く痛みに耐えながら返答する。
「だ、大丈夫よ、クラノ。効いてないわ」
その言葉が嘘であることくらい倉野にもわかった。痛みに歪む表情と荒い呼吸に冷や汗。
防御も出来ずに攻撃を受けたのだから当然だ。けれど倉野には駆け寄れない理由がある。
今、倉野がスキル神速を発動しノエルを助けようとすればブレッドは倉野の存在を無視して帝都を破壊するはずだ。あくまでもネメシス側が倉野たちを格下だと決め込み、エスエ帝国からの返答を待つ間の暇つぶしだと考えているからこそ生まれている時間に過ぎない。
それを理解しているノエルは倉野に助けを求めず、倉野も助けにいけないのである。
無視できない存在だと見せつけなければ、ブレッドの意識を完全に自分に向けさせることはできない。
ブレッドの攻撃を回避しながら倉野はノエルの動きを見守る。
するとブレッドがノエルに近寄り、こう言い放った。
「私の背後をとったことで油断したか? 勝利を確信したか? 世界はそんなに甘くない。勝利とはこのように得るものだ。わかるか? 生温い世界で生きてきた女よ」
そう言いながらエイターはノエルのさらに後方を指差す。そこにいるのは他のネメシス団員だった。
ネメシス団員たちは全員で祈るように両手を合わせている。
「まさか・・・・・・相手の動きを止める魔法を・・・・・・」
エイターの指に視線を誘導されたノエルはネメシス団員たちを見ながらそう呟いた。
それを聞いたエイターは余裕そうに口角をあげる。
「察しは良いようだな、女。その通りだ。今、お前の体は魔力の鎖で縛られている。指一本動かすことはできないだろう」
「くっ・・・・・・一人で戦うって言ったはずじゃない。随分、肝が小さいのね。この卑怯者」
「それが甘いと言っている。どのような矜恃を持っていたとしても死ねば終わりだ。それに約束を違えているつもりはない。こうして一人で相手をしているだろう? 奴らは祈っているだけだ、お前の死をな」
言いながらエイターは右足でノエルの顔を踏みつけた。その重さが頭蓋骨にのしかかり、ノエルは地面に頭を打ち付ける。
「うっ・・・・・・クソ野郎」
「どこまでも口の減らん女だな。しかし、それもここで終わる。案ずるな、祈りくらいは捧げてやろう」
エイターは改めて大剣を構えた。
そんなノエルの状況を見た倉野は心の中にある天秤に問いかける。ブレッドの意識を引き続け帝都を守るべきか。全てを捨ててでもノエルを助けるべきか。いや、最初から答えなど決まっている。
帝都を救うことなど後から考えれば良い。今はノエルを助ける。自分についてきてくれたノエルを見捨てることなどあってはならないのだと。
「スキル神速・・・・・・発ど」
覚悟を決めた倉野がそう唱えかけた瞬間、声が響いた。
「待て! ワシが行く!」
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