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鼠に噛まれた猫の不安

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 突然の事態に倉野たちは反応できずにいたが、伯爵が去ってからようやく頭が追いついた。

「これは一体・・・・・・」

 なにが起きたのかを整理するためにリオネがそう呟く。
 するとレイチェルが先ほどの話をまとめた。

「反国家組織が我が国に対し宣戦布告したようですね。目的はエスエ帝国の崩壊・・・・・・今はまだ一部の貴族しか知らない話だそうですが、帝都中が知るのも時間の問題でしょう」

 真剣な表情で話すレイチェル。それを聞いたノエルが更なる疑問を投げかけた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。相手はエスエ帝国、世界でも五本の指に入るほどの大国だわ。そんな国に対して国でもない組織が宣戦布告? あり得ないわよ。どう考えたってその反国家組織に勝ち目はないわ。焦る必要なんてないんじゃないかしら」

 確かにノエルの言う通りである。反国家組織がどれほど大きいものでもエスエ帝国と戦えるほどではないはずだ。
 もちろん国民に危険が及ぶ可能性はある。一定の対応は必要になるだろうが、エスエ帝国が滅ぶことなど万に一つもないと言っていい。
 
「た、確かにそうですよね」

 リオネがそう返答するとレイチェルだけが暗い表情を浮かべていた。
 そんなレイチェルの様子に気づいた倉野が問いかける。

「どうしたんですかレイチェルさん。確かに不安はあるでしょうけど、ノエルさんが話していたようにエスエ帝国相手じゃどんな組織だって」
「お父様は国防に関わっていないんです」

 倉野の言葉を遮るようにレイチェルがそう言い放った。その言葉の真意がわからず、倉野が聞き返す。

「どういうことですか?」
「貴族にはそれぞれ役割があります。国防や国営事業など様々な役割を負う代わりに特権階級が与えられる。お父様の・・・・・・いえグランダー伯爵家の役割は帝都以外のいくつかの街を管理すること。つまり、今回のような国防に関する話し合いに呼ばれることなんてないはずなんです。相手が戦力的に格下ならば余計にです。呼ばれる理由なんてない・・・・・・何か大きなことが起こっているのかもしれません」

 話を聞いたその場の全員がレイチェルの表情にも納得した。
 国防に関係のないグランダー伯爵をも招集しなければならない事態になっているかもしれない。つまりエスエ帝国にとって大きな危機が訪れている可能性があるのだ。
 何が起きているのか分からないという不安の空気がその場を埋め尽くす。
 そんな空気を切り裂くようにノエルが口を開いた。

「クラノ」

 名前を呼ばれた倉野は分かっていたように頷き、即座にスキルを発動する。

「スキル発動。エスエ帝国が反国家組織の宣戦布告に対して焦っている理由」

 すると倉野の目前に画面のようなものが現れ文字を映し出した。
 素早くそれを読んだ倉野は現在起きている事態に言葉を失う。

「まさか・・・・・・」
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