異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

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生きていく時間と距離

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 覚悟を決め明かした倉野最大の秘密。もしかすると自分の存在を否定されるかもしれない。信じてもらえないかもしれない。だがそれでも良い、どうしても伝えたいという覚悟である。だが返ってきた言葉は想像と違う位置にあった。

「なんだ、そんなことだったんですか」

 最初に答えたのはリオネである。安心半分呆れ半分のような表情でそう言い放つ。その言葉に続きレイチェルも同じような表情を浮かべてから笑った。

「クラノ様が生まれた世界のことはわかりません。体の仕組みや生きていく時間が違うことだってあるでしょう。ですが・・・・・・」

 そこまで言ってからレイチェルは倉野の右手を握り、微笑んでから言葉を続ける。

「こうして互いの温度を感じることができます。心を通わせることができます。相手を思いやることができます」

 レイチェルの積極的な行動に触発されたのかリオネも倉野の左手を握った。

「そうですよ。それに、クラノさんは卑怯なんかじゃないです。その能力だって努力を積み重ねた結果じゃないですか。そんなことを言えば最初から魔力を持っているこの世界の人間の方が最初は有利なはずです。生きている時間だって大切なのは未来の保証じゃない。生きている以上、次の瞬間死なないという保証なんてないでしょう。だから・・・・・・大切なのはこの瞬間を後悔しないように生きること・・・・・・違いますか?」

 二人とも倉野の言葉を全く疑わない。即座に受け入れたのだった。
 両手に温度を感じながら、寄り添うような言葉を受けた倉野は思わず呆然とする。一気に身体中の重りが外れたような表情を浮かべながらレイチェルの言葉に答えた。

「・・・・・・そうですよね。確かに・・・・・・いつ死ぬかなんて誰にもわからない。だからこそ、今を生きる。だからこそ精一杯楽しむんですよね。ははっ・・・・・・こんな当然のことを忘れてしまっていたなんて」
「でも、クラノさんの立場なら仕方ないかもしれませんね。たった一人で全く知らない世界に転移して、自分の持っていない力を持っている人間ばかり。その中で強大な力を得てしまったクラノさんを利用するために近づく人間もいるかもしれません。簡単に話せることじゃないです」

 倉野の考えに理解を示すリオネ。
 そう、倉野は自分の能力を悪用しようという人間が近づいてくることを恐れていた。けれどそれ以上に恐れていたことがある。

「リオネさんの言うとおりです。自分の能力を悪用すれば、何ができるか・・・・・・僕だからこそ想像できることもある。だからこそ、明かすことを恐れていました。でも、リオネさんやレイチェルさんに明かせなかったのは・・・・・・巻き込みたくなかった、失いたくなかったからです。二人とも僕の大切な人です・・・・・・もし僕を悪用しようとする者がいて二人を人質にとられてしまったら。もしこの秘密が重荷になってしまったら。そう考えていました」

 倉野の言葉を聞いたレイチェルは今までにないほど凛々しい表情で口を開いた。

「何言ってるんですか。何も事情を抱えていない人なんていませんよ。クラノ様のその秘密のお陰で私もリオネさんも救われたんです、重荷になんて感じてませんよ」
「もちろんです。だからもう悩まないでください」

 二人の言葉に包まれ倉野は暖かな気持ちに溢れる。心なしか二人との距離がいつもより近いように感じた。
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