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生まれた世界を超越する愛

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 そんな準男爵にレイチェルは優しく微笑みかけた。

「いえ、謝ることなど何もありません。父が娘を守るために体を張る・・・・・・そんな素晴らしい姿を見せていただきました」

 レイチェルの言葉に続くようにミューが準男爵に話しかける。

「あのね、お父さん。ぬいぐるみを取り上げられて困ってたところをこの人たちに助けてもらったの」
「なんと、私は取り乱したどころか、飛んだ勘違いを・・・・・・度重なる失礼・・・・・・お詫びのしようもございません」

 ミューの言葉で真実を知った準男爵は言いながら頭を下げた。
 すると、レイチェルは優しく添えるように準男爵の肩に触れる。

「大切なお子様が大人に囲まれていて心配しない親などいるはずがありません。当然の行為ですし、私たちは何も失礼なことなどされていませんよ。そうですよね、クラノ様リオネさん」
「ええ、もちろん」
「はい、その通りです」

 倉野とリオネが順番に頷くとバランコリック準男爵は感謝の表情を浮かべながらミューを撫でた。

「本当にありがとうございます。この子には私の目の届かないところで悲しい思い、辛い思いをさせてしまっていると薄々は感じていました。グランダー伯爵家の御令嬢であれば我が家の事情はご存知でしょう? ですが、私にできることなどたかが知れています。貴族といえども準男爵・・・・・・大きな同調圧力や、世の中の流れ、風潮に立ち向かえるほどの立場ではありません。しかし必ず幸せにすると誓ったんです・・・・・愛する妻、この子の母に・・・・・・そして同じ女性を愛したこの子の父に。お恥ずかしながら、何ができるのかと考える日々ですよ」

 そう話す準男爵の言葉に倉野は自分の弱さを照らされたような気持ちを感じる。生まれた世界が違うから、そんな理由で自分の正体を信頼している人にも話せない自分の弱さ。
 バランコリック準男爵もミューも生まれた世界が違うと言えるだろう。だが、お互いに歩み寄ってその差を埋めようとしていた。周囲の理解が得られなくても、世の中の流れに逆らっていても、自分にできることは何かと考えている。
 そこには世界や立場など超越した絆があった。信頼があった。愛があった。
 目に映らないそんなものが二人を支え合っている。
 倉野がその美しさに心を揺さぶられている間にも話は進み、バランコリック準男爵は深く礼を言い、ミューを連れて帰っていった。

「それでは失礼します。さぁ、帰ろうミュー。お母さんが待っているよ」
「うん!」

 手を繋ぎ歩く姿は誰がどう見ても本当の親子である。
 親子の背中を見送りながらレイチェルは優しく微笑みながら呟いた。

「良いものですね。ミューさんは準男爵を想い、準男爵はミューを想う。血の繋がりよりも濃い繋がりを感じさせていただきました。本当の信頼に生まれた世界など関係ないのでしょうね」

 レイチェルに続き、リオネも頷き口を開く。

「ええ、そうですね。人と人の繋がりに生まれた世界や人種、立場なんて関係ないって思っていてもそう簡単に行動に移せるものじゃないです。けれどあの二人はちゃんと繋がっていましたね」

 引き金を最後まで引いたのはそんな二人の言葉だった。
 倉野は今までにないほど清々しい気持ちでリオネとレイチェルに話しかける。

「あの・・・・・・大切なお話があります。聞いてもらえますか?」
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