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二人の父親
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するとミューは自分のぬいぐるみの存在を認めてもらえたことで、心を許したのか嬉しそうに答えた。
「この子はエメラルド。私のお友達なの。お父さんからもらった大切なお友達」
「素晴らしい名前ですね。先ほどエメラルドさんを取り返してくれた方がクラノ様です。そしてこちらがリオネさん。私にとって大切なお友達です」
レイチェルに紹介された倉野とリオネはミューに優しく微笑む。それによってミューは三人のことを信頼したのか、笑顔を浮かべた。
ミューの笑顔を確認したレイチェルは大丈夫だろうと判断し、幼い彼女が抱えている事情について話し始める。
「こちらのミューさん、現在はバランコリック準男爵の長女となっておりますが、血の繋がりはないんです」
レイチェルの言葉を聞いたリオネはいくつかの可能性を頭に浮かべながら、聞き返した。
「養子になったということですか?」
するとレイチェルは少し悩んでから答える。
「そうとも言えますし、そうではないとも言えます。ミューさんは元々、貴族ではない普通の家庭に生まれたそうです。実のお父様は冒険者をなさっていたと聞いています。しかし、数年前に魔物討伐の依頼を受け、帝都を出たっきり戻っては来なかった。一緒に依頼を受けていた冒険者を救うために、犠牲になったのです。そしてミューさんのお父様は事切れる間際、奥様にこう言い残したそうです。自分のことは忘れて幸せを掴んでくれ、と。このような時代に幼いミューさんとお母様二人で生きていくのは難しいだろうと考えたのでしょうね。他人を救い、最後まで家族を想い続けた素晴らしい方だったのだと聞いています。そして一年ほど前でしょうか、ミューさんのお母様はバランコリック準男爵と出会いました。バランコリック準男爵の一目惚れだったそうです。準男爵はそこから誠実ながらも熱烈な求婚をした」
ミューの表情を窺いながら、言葉を選びながらレイチェルは少女の抱える過去を語った。
話を聞いていた倉野はなるほどと頷き口を開く。
「それで、この子は貴族になったということですか?」
しかし、レイチェルは首を横に振った。
「いいえ、話はそう簡単ではありません。血筋を大切にする貴族・・・・・・バランコリック準男爵は周囲からも猛反対されていました。もちろんミューさんのお母様もそういった風潮を知っているため、求婚を断っていたそうです。しかし、バランコリック準男爵は諦めなかった。自分が爵位を失ってでもお母様とミューさんを幸せにする、そう語ったと聞いています。それほどの覚悟だと知った周囲の人間はバランコリック準男爵の婚姻を認めざるを得なかった。準男爵が爵位を失うことになればバランコリック家そのものがなくなってしまいますからね。そして、そんな準男爵の気持ちを知ったお母様は自分と自分の娘を幸せにしてくれるだろう、と求婚をお受けになった」
幼いながらも実の父親を失い、貴族の娘になるという人生を歩んできたミュー。
人格者の優しい実父と強い覚悟を持つ愛情深い養父。二人の意思を受け継いでいるその瞳は雲ひとつない青空のように澄んでいた。
しかし、どれだけバランコリック準男爵が守ろうと思っても、子どもたちの思考まで変えることはできないらしい。
「この子はエメラルド。私のお友達なの。お父さんからもらった大切なお友達」
「素晴らしい名前ですね。先ほどエメラルドさんを取り返してくれた方がクラノ様です。そしてこちらがリオネさん。私にとって大切なお友達です」
レイチェルに紹介された倉野とリオネはミューに優しく微笑む。それによってミューは三人のことを信頼したのか、笑顔を浮かべた。
ミューの笑顔を確認したレイチェルは大丈夫だろうと判断し、幼い彼女が抱えている事情について話し始める。
「こちらのミューさん、現在はバランコリック準男爵の長女となっておりますが、血の繋がりはないんです」
レイチェルの言葉を聞いたリオネはいくつかの可能性を頭に浮かべながら、聞き返した。
「養子になったということですか?」
するとレイチェルは少し悩んでから答える。
「そうとも言えますし、そうではないとも言えます。ミューさんは元々、貴族ではない普通の家庭に生まれたそうです。実のお父様は冒険者をなさっていたと聞いています。しかし、数年前に魔物討伐の依頼を受け、帝都を出たっきり戻っては来なかった。一緒に依頼を受けていた冒険者を救うために、犠牲になったのです。そしてミューさんのお父様は事切れる間際、奥様にこう言い残したそうです。自分のことは忘れて幸せを掴んでくれ、と。このような時代に幼いミューさんとお母様二人で生きていくのは難しいだろうと考えたのでしょうね。他人を救い、最後まで家族を想い続けた素晴らしい方だったのだと聞いています。そして一年ほど前でしょうか、ミューさんのお母様はバランコリック準男爵と出会いました。バランコリック準男爵の一目惚れだったそうです。準男爵はそこから誠実ながらも熱烈な求婚をした」
ミューの表情を窺いながら、言葉を選びながらレイチェルは少女の抱える過去を語った。
話を聞いていた倉野はなるほどと頷き口を開く。
「それで、この子は貴族になったということですか?」
しかし、レイチェルは首を横に振った。
「いいえ、話はそう簡単ではありません。血筋を大切にする貴族・・・・・・バランコリック準男爵は周囲からも猛反対されていました。もちろんミューさんのお母様もそういった風潮を知っているため、求婚を断っていたそうです。しかし、バランコリック準男爵は諦めなかった。自分が爵位を失ってでもお母様とミューさんを幸せにする、そう語ったと聞いています。それほどの覚悟だと知った周囲の人間はバランコリック準男爵の婚姻を認めざるを得なかった。準男爵が爵位を失うことになればバランコリック家そのものがなくなってしまいますからね。そして、そんな準男爵の気持ちを知ったお母様は自分と自分の娘を幸せにしてくれるだろう、と求婚をお受けになった」
幼いながらも実の父親を失い、貴族の娘になるという人生を歩んできたミュー。
人格者の優しい実父と強い覚悟を持つ愛情深い養父。二人の意思を受け継いでいるその瞳は雲ひとつない青空のように澄んでいた。
しかし、どれだけバランコリック準男爵が守ろうと思っても、子どもたちの思考まで変えることはできないらしい。
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