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シラムノキテン

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 ノエルの言葉を聞いた伯爵は倉野の事情を考察しながらも頷いた。
 倉野は自分の本心が言えない状況。リオネは関係性を崩したくない。レイチェルは一度告白し断られているので、どうすればいいのかわからない。
 そんな空気を察したのは一番の年長者、シラムだった。
 
「さて、そろそろ朝食も終わりでしょう。片付けさせていただきますね。ああ、そう言えば旦那様。例のお話を勧められてはいかがでしょうか?」

 シラムは空気を変えるためにそう語りかける。そしてその先にはシラムなりの考えがあった。
 話しかけられた伯爵は何のことか分からずに聞き返す。

「うん? 例の話?」
「ええ、ノエル様を当家でお雇いしたいという話です。詳しい話を詰めてはいかがでしょうか」

 そこでシラムが何を考えているのか察した伯爵はなるほどと頷きながら乗っかった。

「ああ、確かにそうだな。詳しい話はまだしていなかったからね。どうだろうノエル殿、今から少し時間を頂いてもいいかな。エスエ帝国内に不穏な動きをする組織が紛れ込んできたという話だからね。能力のある護衛が必要だと考えているのだよ。確か反国家組織と言ったか」

 そうグランダー伯爵がノエルに話しかけると、ノエルもその作戦を理解したらしく、流れに乗る。

「ええ、そうね。ぜひそうしましょう」

 不自然なほどすんなりと話が進む様を呆気にとられながら眺める倉野、リオネ、レイチェル。
 
「では、私の部屋で話を進めようか」

 そう言って伯爵はシラムとノエルを連れて大広間を出ようとした。
 大広間を出る直前に伯爵はこう言い残す。

「ああ、そうだレイチェル。私がノエル殿と話している間、クラノ殿とリオネ殿を連れて貴族街を散策してはどうだ? せっかくの招いた客人の暇を持て余してはいけないからね。ぜひご案内して来なさい」

 突然の提案と展開に追いつけていないレイチェルは反射的に頷いた。

「は、はい。ではそう致します」

 レイチェルの答えを聞いた伯爵は満足そうにそのまま大広間を出ていく。
 大広間を出た三人はお互いに顔を見合わせて、口角をあげた。うまくことが進んでいる、という感情の現れである。
 そのままノエルが嬉しそうに口を開いた。

「さすがね、シラムさん。あの場で咄嗟に当人たちだけにするなんて」
「恋愛ごとに他人が介入するとあらぬ方向に進んでしまいますからな。当人たちで少しずつでも進んでもらうべきかと思いまして。これもお嬢様の幸せのためです」

 うまくいってよかったと安堵の表情を浮かべながら答えるシラム。そうして伯爵たち三人はその場を立ち去った。
 残された倉野たちは先ほどの空気を引きずったまま、お互いに顔を見合わせる。
 若干の気まずさを感じながら倉野は立ち上がり、レイチェルとリオネに話しかけた。

「それじゃあ、せっかくですから外を歩きましょうか。そう言えばしっかり貴族街を探索したことなかったですし」
「そうですね。ご案内させていただきます」

 レイチェルがそう答え、倉野たち三人も大広間を出る。
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