異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

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喉越しと効率

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 酒場の店内で席につくとすぐにニャルが麦酒を人数分運んでくる。

「どうぞ、乾杯といえばこのお酒ですよね。私は飲んだことないですけど、皆さん乾杯はこれになさいますよ」

 ニャルがそう言って麦酒を配るとレオポルトが言葉を返した。

「ああ、この酒は味を楽しむと言うよりも喉越しだからな。疲れと暑さ、鬱憤なんかを吹き飛ばしてくれるのだ。他にも理由はあってな、様々な酒を同時に頼むと乾杯まで時間がかかってしまうだろう。注ぐだけで完結する麦酒を皆で頼むのが効率的というものだ。まぁ、この特徴的な苦味が不得意という者もいるがな」

 レオポルトの説明を聞いたニャルはなるほど、と納得する。

「私の仕事時間はもう少しで終わりますので、後で合流しますね。それでは」

 そう言い残しニャルは仕事に戻っていった。
 ニャルを見送ってから倉野たちは酒を手に取り乾杯する。乾杯の音頭をとったのはレオポルトだ。

「それでは再会を祝して、乾杯だ」

 四人は酒を掲げ、再会を祝う。
 一口ずつ麦酒を飲むとノエルがレオポルトに話しかけた。

「しかし、これがあの有名な血煙の獅子とはねぇ」
「どうしたお嬢さん。確か、ノエル・マスタングといったか。イメージと違ったか?」

 麦酒を喉に流し込みながらレオポルトが問いかける。するとノエルは気を遣うわけでもなく素直に答えた。

「正直、そうね。もっとこう厳つい武人のような人かと思ってたわ。いや、見た目は十分厳ついんだけどね」

 ノエルの感想を聞いていたジュドーは軽く笑って口を挟む。

「ははっ、確かにそうかもしれませんね。今のレオポルト様はかつてほど尖ってはいませんから。まるで真四角の石が川を流れていくうちに角が取れていくように丸くなっていきました。今ではニャル様の父親という肩書がお似合いですよ」
「ふん、今のワシにとって大切なのはニャルの幸せだからな。そのためにはビスタ国が平和であり続ける必要がある。だからこそこの特命全権大使という職務を全うしているのだ」

 少し恥ずかしそうにレオポルトは麦酒を飲み干した。
 そんなレオポルトに対してノエルは残念そうにこう話す。

「そっかぁ、せっかく血煙の獅子に会えたのだから手合わせしてもらおうかと思ってたんだけどぁ」
「ほう、立ち振る舞いから剣を嗜んでいるのはわかっていたが、自信があるようだな」

 レオポルトが聞き返すとノエルも麦酒を飲み干して答えた。

「ええ、私は傭兵よ。戦いを職業にしている者なら血煙の獅子の名前に憧れるものよ」

 二人の話を聞いた倉野は慌ててノエルを止める。

「ちょ、ちょっとノエルさん。物騒な話はやめましょうよ」
「あら、全然物騒な話じゃないわよ。傭兵や冒険者、兵士なんかにとって模擬戦闘は挨拶のようなもの。お互いを知るための儀式よ」
「だからって、お酒も飲んでますし」
「この程度のお酒なんて、体を温める準備運動と変わらないわ。ねぇ、レオポルトさん」

 ノエルはそう言いながら立ち上がった。
 レオポルトもその言葉に応えるように立ち上がったが、ジュドーは止めようともしない。
 倉野だけが困ったようにあたふたしていた。

「二人とも落ち着きましょうよ。ジュドーさんも止めてください」
「いいじゃないですか、クラノ様。やらせておきましょう。こういった者たちは人種に関わらず戦ってこそ信頼を深めるものですよ」

 落ち着いて麦酒の喉越しを楽しむジュドーに諭され、倉野は押し黙る。
 どうやらノエルとレオポルトは手合わせをすることに決定したらしい。
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