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殴り合う信頼関係
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それほど大きいとも豪華とも言えないビスタ国大使館。そこにはビスタ国そのものの大きさや財力、世界全体への影響力、そしてエスエ帝国との関係性が表れているのだろう。
ジュドーはそのまま止まらず大使館正面入り口の扉を開き、倉野たちを招き入れた。
「どうぞ、お入りください。大したおもてなしは出来ませんが、お茶をお出ししましょう。その後レオポルト様をお呼びいたしますので、来客室でお待ちください」
そう言ってジュドーは倉野たちを空いている来客室へと通す。
その部屋には大きな机と幾つかの椅子だけが置いてあり、装飾も質素だ。そこで倉野たちは椅子に座り、ジュドーが用意した紅茶を飲みながらレオポルトを待つ。
ジュドーはレオポルトを呼ぶために紅茶を用意した後に、部屋を出た。
紅茶を飲みながらノエルが倉野に話しかける。
「先ほどのジュドーって人、えらく仕事が早く丁寧な人ね。さぞかし優秀なんでしょうね。短所なんてなさそうだわ」
ノエルの言葉を聞いたスミナ・ディフォルは同調するように頷いた。
「ええ、そうね。どこにも欠点なんてなさそう。あれほどの人材なら我が家で雇いたいくらい。獣人であることが惜しいくらいだわ」
そんな二人の会話を聞いて倉野は苦笑する。
確かに仕事に関しては優秀であり、他人から見れば丁寧にも見えるだろう。だが、彼には大きな欠点があった。
倉野の苦笑に続くようにその欠点が部屋の外から響いてくる。
「だから、なんで仕事をサボって酒飲んでんですか。今日までに資料を片付けておいてくださいと言ったでしょう。この猫耳筋肉だるま」
聞こえてきたのはジュドーの声だ。おそらくレオポルトへの文句だろう。
続いてレオポルトの豪快な声が響いてきた。
「うるさい。ワシが飲みたいと思った時、それは酒を飲む時間だ。お前も飲めジュドー。クラノとの再会だ、祝い酒は必要だろう」
「クラノ様が訪ねていらしたと知る前から飲んでいたでしょうが、このくそ猫。それに祝い酒ならばクラノ様と乾杯してからではないですか。脳みそまで筋肉になってしまったのでは?」
外での会話を聞いたノエルとスミナ・ディフォルはジュドーの欠点、レオポルトに対する口の悪さに気付き苦笑する。
部屋にいる三人ともが苦笑しているとレオポルトを引き連れてジュドーが入ってきた。
「お待たせいたしました。ほらさっさと入りなさいよ、猫もどき」
おそらく仕事中に酒を飲んでいるレオポルトに対して不満が爆発し、不機嫌になってしまったであろうジュドーは言いながら部屋に入る。それに続き、レオポルトが右手を上げながら入ってきた。
「おう、クラノ。イルシュナぶりだな。元気そうで何よりだ」
筋骨隆々という似つかわしい体と凛々しい顔、そしてそのどれもに似つかわしくない猫耳の男。よく見ればその体には細かい傷跡が数え切れないほど残っている。この立場になるまでの苦労が刻まれていた。
即座に倉野は返答する。
「レオポルトさんもお元気そうで何よりです。それにしても相変わらずですね」
「ああ、全くだ。ジュドーの奴、頭が硬くてなぁ」
レオポルトがそう言うとジュドーは無表情のまま言い返した。
「規則は規則。仕事は仕事ですが、何か」
「ほらな、この通りだ」
うんざりしたようにレオポルトは倉野に語りかける。
お互いに信頼しているが故の関係性なのだろう、と倉野は微笑ましく思った。
ジュドーはそのまま止まらず大使館正面入り口の扉を開き、倉野たちを招き入れた。
「どうぞ、お入りください。大したおもてなしは出来ませんが、お茶をお出ししましょう。その後レオポルト様をお呼びいたしますので、来客室でお待ちください」
そう言ってジュドーは倉野たちを空いている来客室へと通す。
その部屋には大きな机と幾つかの椅子だけが置いてあり、装飾も質素だ。そこで倉野たちは椅子に座り、ジュドーが用意した紅茶を飲みながらレオポルトを待つ。
ジュドーはレオポルトを呼ぶために紅茶を用意した後に、部屋を出た。
紅茶を飲みながらノエルが倉野に話しかける。
「先ほどのジュドーって人、えらく仕事が早く丁寧な人ね。さぞかし優秀なんでしょうね。短所なんてなさそうだわ」
ノエルの言葉を聞いたスミナ・ディフォルは同調するように頷いた。
「ええ、そうね。どこにも欠点なんてなさそう。あれほどの人材なら我が家で雇いたいくらい。獣人であることが惜しいくらいだわ」
そんな二人の会話を聞いて倉野は苦笑する。
確かに仕事に関しては優秀であり、他人から見れば丁寧にも見えるだろう。だが、彼には大きな欠点があった。
倉野の苦笑に続くようにその欠点が部屋の外から響いてくる。
「だから、なんで仕事をサボって酒飲んでんですか。今日までに資料を片付けておいてくださいと言ったでしょう。この猫耳筋肉だるま」
聞こえてきたのはジュドーの声だ。おそらくレオポルトへの文句だろう。
続いてレオポルトの豪快な声が響いてきた。
「うるさい。ワシが飲みたいと思った時、それは酒を飲む時間だ。お前も飲めジュドー。クラノとの再会だ、祝い酒は必要だろう」
「クラノ様が訪ねていらしたと知る前から飲んでいたでしょうが、このくそ猫。それに祝い酒ならばクラノ様と乾杯してからではないですか。脳みそまで筋肉になってしまったのでは?」
外での会話を聞いたノエルとスミナ・ディフォルはジュドーの欠点、レオポルトに対する口の悪さに気付き苦笑する。
部屋にいる三人ともが苦笑しているとレオポルトを引き連れてジュドーが入ってきた。
「お待たせいたしました。ほらさっさと入りなさいよ、猫もどき」
おそらく仕事中に酒を飲んでいるレオポルトに対して不満が爆発し、不機嫌になってしまったであろうジュドーは言いながら部屋に入る。それに続き、レオポルトが右手を上げながら入ってきた。
「おう、クラノ。イルシュナぶりだな。元気そうで何よりだ」
筋骨隆々という似つかわしい体と凛々しい顔、そしてそのどれもに似つかわしくない猫耳の男。よく見ればその体には細かい傷跡が数え切れないほど残っている。この立場になるまでの苦労が刻まれていた。
即座に倉野は返答する。
「レオポルトさんもお元気そうで何よりです。それにしても相変わらずですね」
「ああ、全くだ。ジュドーの奴、頭が硬くてなぁ」
レオポルトがそう言うとジュドーは無表情のまま言い返した。
「規則は規則。仕事は仕事ですが、何か」
「ほらな、この通りだ」
うんざりしたようにレオポルトは倉野に語りかける。
お互いに信頼しているが故の関係性なのだろう、と倉野は微笑ましく思った。
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