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三度の黒兎

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 岸壁を警備する衛兵に言付けを頼んでからしばらくした後、遠くで揺れる二本の黒い何かが見えた。
 それが待っていたものだと、倉野は即座に理解し手を振る。

「ジュドーさん!」

 感動の再会と言わんばかりに倉野が呼びかけるとその端正な顔は近づきながら驚いた表情を浮かべた。

「お久しぶりですね。しかし、どうなさったのですかクラノ様。まさかオーリオで再開することになるとは思いませんでした」

 ジュドーは倉野たちのすぐ側で立ち止まると息を整えながらそう話す。
 確かに最後に会ったのはエスエ帝国から遠く離れたイルシュナという国だ。この場所で再開するとは思っていなかっただろう。
 そんなジュドーに倉野は事情を説明した。

「お久しぶりです。いやぁ、あれから色々ありまして、最終的にはオランディから船で戻ってきたんですよ」
「なるほど、世界中を飛び回っているということですね」

 そう返答しながらジュドーは倉野に同行者がいることを確認する。ノエルとスミナ・ディフォルに気づいたジュドーは即座に姿勢を正し、美しい所作で頭を下げた。

「申し遅れました。私、ビスタ国特命全権大使レオポルト・バッセルの秘書をしております、ジュドー・カポネと申します。どうぞお見知り置きを」

 ジュドーの挨拶を聞いたノエルとスミナ・ディフォルは揺れる黒兎の耳の動きに目を取られながらも返答する。

「私はノエル・マスタング。傭兵をしているわ。いろんな事情があってクラノに同行しているの。こちらこそよろしくね」
「オランディから参りました、ディフォル準男爵の娘。スミナ・ディフォルと申します」

 挨拶をする二人の内面を覗くようにジュドーは真っ直ぐな目でその様子を見ていた。
 挨拶を聞き終えたジュドーはなるほど、と頷き口を開く。

「ノエル様とスミナ様ですね。傭兵と他国の貴族様を引き連れていらっしゃるとはクラノ様はいつも不思議な立場にありますね。それにしてもよく私がここにいることが・・・・・・いやクラノ様ならばすぐに分かるのでしたね」

 すぐに答えへと辿り着いたジュドーは納得した表情で微笑んだ。
 そんなジュドーに対して倉野は言葉を返す。

「そうなんです。少し事情があって、今ジュドーさんやレオポルトさんがどこにいるのか調べさせてもらいました」
「ほう、事情ですか。それが先ほど言付けにあったお願いと関係しているのですね?」

 状況から察した彼はそう倉野に尋ねた。倉野は頷き、これまでの事情を簡潔に説明する。
 スミナ・ディフォルの婚約者、インディゴが麻薬で植物状態にあること。そしてそれを治すためにはビスタ国でしか育てることのできない薬草が必要であること。それを手に入れるという約束をスミナ・ディフォルと交わしたこと。
 そこまで聞いたジュドーは少し考えんでから口を開いた。

「なるほど・・・・・・なるほど。麻薬によって脳内に魔法物質が・・・・・・となると必要な薬草とは獅子草のことですね。しかし、どうしてクラノ様がこちらのご令嬢の婚約者を救おうと・・・・・・いえ、愚問でしたね。クラノ様はそういう方ですからね」

 何度も一緒に苦難を乗り越えてきたからなのかジュドーは即座に事情を察する。
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