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僕は救いたい

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「まだ、名前も名乗っていない初対面の男を信用できないわ。名前とここへ来た真意を語って頂戴。それ次第で私が口にする言葉は大きく変わるわ」

 スミナ・ディフォルはそう言いながら少しだけ倉野に歩み寄る。それは物理的な距離でもあり心理的な距離でもあるように思えた。
 そして倉野はその言葉を待っていたかのように頷いてから名乗る。

「申し遅れました、僕の名前は倉野です。真意は先ほど話した通りですよ。僕はリオネさんやノエルさんを救いたい・・・・・・それと同時に貴女も救いたいんです」

 倉野の言葉を聞くとスミナ・ディフォルは嘲笑気味に息を吐いた。

「はっ・・・・・・私を救う? 私の何を知っていると言うのよ。アンタが救いたいのは同行者の彼女たちでしょ。残念ね、私を救うどころか彼女たちも救えないわ。彼女たちが身につけている指輪には爆発魔法を付与しているの。いつだって消し去ることができるわ、この船ごとね」
「残念ですね、僕に嘘は通用しません。スミナさん、貴女が指輪に付与しているのは外れなくなる魔法と盗聴魔法です。指輪を爆発させることはできない」
「な・・・・・・どうしてそれを・・・・・・」

 真実を言い当てられたスミナ・ディフォルは衝撃からか動揺からか誤魔化すことができず感情のままに言葉を漏らす。
 ここが攻め時だと感じた倉野は話を核心へと進めた。

「僕の目的は貴女の罪を暴くことではありません。先ほども話した通り救いたいんです。貴女を救う方法は一つ」

 そこまで倉野が話すとスミナ・ディフォルは強い語調でこう答える。

「私の復讐を奪った相手を暴くことよ!」
「いいえ、違いますよ。例えディート殺害の犯人を暴いたとしても貴女の心が晴れることはありません。根本的な解決にはならないんです。もちろんディート殺害の犯人も暴きますが、苦しみの根元を取り除きましょう」

 可能な限りスミナ・ディフォルを刺激しないように優しく語りかける倉野。だがスミナ・ディフォルは奥歯を噛みしめ、行き場のない怒りを吐き出すように言い返した。

「じゃあどうすればいいのよ! アンタを信じればあの人が帰ってくるとでも言うの? 麻薬という快楽に溺れ、苦しみながら死んでいったあの人を生き返らせることができるの? だったら返してよ・・・・・・あの人を・・・・・・インディゴを返してよ・・・・・・」

 怒りと悲しみ。心の中で荒ぶる感情が彼女の目から涙を溢れさせる。それは色素を忘れてきた血液のように痛みを伴っていた。
 言いながらスミナ・ディフォルは両手で顔を隠す。だが悲痛な呟きは隠しきれない。
 そんなスミナ・ディフォルに先ほど取り出した全てを断ち切る武器を使用した。そう悲しみの根元を消し去る情報である。

「もう一度言います。しっかり聞いてください。これは暗喩でも隠喩でもありません。インディゴ・フライさんは救えるんですよ。彼はまだ死んでいない」

 倉野の言葉を聞くとスミナ・ディフォルは呼吸が止まったかのように無音のまま両手を下ろし、目を見開いた。



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