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四方から囲まれた蛙は油を流す

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 甲板の二つ下の階層。乗客の荷物や契約している大きな商会の貨物を載せている広い倉庫があった。そこには木箱や布袋が規則的に置かれており、まるで迷路のようになっている。
 本来ならば出向前に荷物を詰め込み、到着するまで誰も立ち入ることのないその場所に出航して二日目の夜、足を踏み入れた者がいた。もう明日になればエスエ帝国に到着するというのに性急なことである。
 だが、その者には目的があった。

「おい、出てこいよ、ディート。いるんだろう? 生きてたんだってな。またクスリを売ってくれよ」

 大きな灯もなく薄暗い倉庫の中でその者の声が響く。
 しかし、返事はない。耳を澄ましながらその者は再び呼びかけた。

「まさか、俺が犯人だと思ってやがるのか? そいつがしょうもない妄想だってことはもう一度ワインを飲みながら笑いあえば誰にでもわかることだぜ。グラスに毒を塗ったのは多分オルタールのやつだ。もしくは麻薬に恨みを持ってたあのご令嬢とかな」

 その者がそう言い放った瞬間に甲高い声が響く。

「ライト!」

 声の主はノエルだった。ノエルは木箱の陰から両手を突き出し、光を放ち周囲を照らすライトの魔法を発動させる。
 その瞬間に先ほどまでディートに呼びかけていた者の顔が照らされた。

「やっぱり、アンタだったのね。オースティン・ウェストヘッジ!」

 ノエルはそこに立っていた男の名前を叫ぶ。
 そう、そこにいたのはオースティン・ウェストヘッジ。ディートから麻薬を購入し使用してた商人である。
 そんなオースティンの手には短刀が握られていた。
 オースティンは咄嗟に短刀を背後に隠し、慌てながら否定する。

「な、何を言ってるんですか。わ、私は・・・・・・その、ここには・・・・・・そう自分の荷物を確認しに」
「苦しい言い訳ね。今自分でいったじゃないディートって」

 追い詰めるようにノエルがそう言い放つとオースティンは冷や汗をかきながら首を横に振った。

「ち、違いますよ。聞き違いじゃないですか」
「そう? じゃあ、その手に握られている短刀はどう説明するの?」
「護身用・・・・・・そう護身用ですよ。人が殺されるような物騒な船なので自分で身を守らなければいけませんからね」

 オースティンが苦し紛れにそう答えるとその背後の荷物の陰からセブンスが顔を出す。

「そいつが嘘だってことは俺じゃなくてもわかる話だぜ。お前はディートから麻薬を購入していたはずだ。この目がその会話を聞いていた」

 言いながらセブンスは自分の目を指差した。
 するとオースティンは奥歯を噛み締め、追い詰められたような表情で言い返す。

「く・・・・・・くそ。ああ、そうさ。確かに俺はディートから麻薬を購入していた。だから今回も購入しようと思ってここへ来ただけさ。麻薬はどこの国でも売買を認められていないからな、だから面識を否定した。それだけのことだよ。ディートを殺したのは俺じゃあない」

 麻薬の購入を認めた上で殺害を否定するオースティン。だが、そう言い逃れることは想定済みだった。
 次に言葉を放ったのはオースティンの右側の荷物に隠れていたリオネである。

「殺したのは俺じゃあない。そう言いましたね」

 リオネの登場に驚きながらもオースティンは頷く。

「あ、ああ。俺じゃあない、多分オルタールの奴、いやディートを恨んでるスミナとかって貴族の女も怪しいな」
「確か、オースティンさんは最初に話を聞いたときも事件、殺された方と言っていましたね。その時に気づくべきでした」
「何を言ってんだよ・・・・・・」

 オースティンがそう問いかけるとその右側に隠れていたアルダリンが顔を出した。

「ほっほっほ、気付いておりませんか。そうでしょうなぁ。灯台の下は暗いと言いますからな」
「くっ・・・・・・だから何を言ってんだよ!」
「ディートは自殺したはずなんですよ。事件でも殺された、でもない。自分で毒を飲んで死んだとされているのです。何故、事件だと知っていたんですか」

 言葉の矛盾を指摘しオースティンを追い詰めるアルダリン。その表情はもはや自白しているも同然だった。追い詰められ、どう反論していいかわからす、ただただ奥歯を噛み締めている。物理的にも精神的にも囲まれている状況だ。
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