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小さな策略大きな悪意

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 グランマリア号は海上を滑るように進み続け、エスエ帝国に近づいていく。
 その動きを止める者などおらず、止めようと思っても止められるものではない。
 セブンスがアルダリンの部屋を訪れ、協力を名乗り出てから半日。グランマリア号はさらにエスエ帝国に近づいていた。
 外は真っ暗になり空に浮かぶ月と星々。それが真っ黒な海に映り、輝くカーペットを敷いているように見える。
 星屑のカーペットを進み続けるグランマリア号の中で小さな策略と大きな悪意が渦巻いていた。
 その小さな策略はギャンブルルームから始まっている。ある噂が流れたのだった。客たちはギャンブルをしながらその噂について話をする。

「おい、聞いたか。例の麻薬の噂」
「ああ、どうやら今夜取引があるらしいな。またでっけぇ金が動くんだろうよ」
「俺たちには関係ない話だがな」
「ははっ、違いない。ハマりすぎるとわけわかんなくなって死んじまうって話だ。値段だって目玉が飛び出るほどらしいぜ。どっちにしろ身を滅ぼすことになるだろうな。天にも昇る気持ちになるのは使用者じゃなくて売ってるやつだろうぜ」

 一度流れ始めた噂は誰にも止めることなどできない。放流を始めたダムのように一気に流れていくのだった。
 その噂はどんどんと情報を付け足され、麻薬取引の全貌が見えてくる。

「麻薬取引の場所は貨物倉庫だってよ」
「貨物倉庫って甲板よりも二つ下の階層にあるあそこか。確かにあそこは人が来ないし荷物でごちゃごちゃしてるから取引にはもってこいかもしれんな」
「でも変な噂も流れてるんだよ」
「変な噂?」
「ああ、二月前に麻薬の売人がこの船で自殺したらしいんだが、生きてたって噂だ。どうも死んだふりをしてたんだってよ」
「なんで死んだフリなんかしてたんだ?」
「そこまでは知らねぇよ。麻薬なんて取り扱ってたら命を狙われることもあるだろうし、自分の命を守るためなんじゃないのか。死んだやつを殺そうなんて思わないからな」
「で、そいつが生きてたからどうだって言うんだよ」
「どうってことはないんだが、今回の取引はそいつが売人らしいのさ。死んだはずの売人が出てくるってことで噂になってるんだ」
「へぇ、確かに気になる噂だが、そいつも何考えてるんだろうな。生きてたにせよ命狙われてたんだろ? もう出てきてしまったらまた殺されるんじゃないか?」
「さぁねぇ。麻薬なんて扱うやつぁ、元々ぶっ飛んでんじゃねぇか。そんなやつの考えることなんてわかるわけもないさ」

 ギャンブルルームでの噂は船内中に広がっていった。もちろんすべての乗客が知るわけではない。裏の情報とでも言うのだろうか。そのようなあまり合法的とは言えないものに興味を持ち、集める人間だけがその噂を知ることとなる。
 もちろんディートを殺害した可能性のある三人。オルタール、オースティン、スミナにも伝わっているはずだ。
 そしてグランマリア号殺人事件は最終局面を迎える。
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