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残る残るピース

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 ここにきてディートの死の直前の状況に近づいた一同。まだ全てが分かったわけでも何かが確定したわけでもない。だが、間違いなくオースティンが有力な容疑者の一人だろう。
 ここでもう一度、確認したいことが浮上した。
 その疑問をノエルが口にする。

「でもまだ埋まったのはグラス五つのうちの一つ。一つがディートの物、そしてもう一つはオースティンの物。そう考えれば残り最大で三人部屋にいたことになるわね。予備で幾つか余計に持ってきたとも考えられるけど、その全てが使用済みだったはずよ。それに置いてあった葡萄酒は一つ、途中でグラスを替える必要があったとは思えないわ。つまり後三人はいるはずなの」

 疑問を解明すればまた新たな疑問が生じ、それをまた解明していく。それを繰り返していくしかなかった。
 知らなければならないことはディートが亡くなる直前に誰がいたのか、である。
 少し各々で考えをまとめた後、三人は再び議論を交わした。
 最初に口を開いたのはアルダリンである。

「しかし、再びオースティンやそのほかの容疑者、オルタール、スミナ・ディフォルに話を聞くのは難しいでしょうな。一度完全に否定されていますからね。何かしらの明らかな証拠・・・・・・ディートとの関係を決定づける証拠がなければ話を進めることはできないでしょうぞ。全てはギャンブルルームのディーラーが集めていた情報を基にしていますからな」

 一人の証言や推測では相手を追い詰めることなどできない。むしろ、より強固な証言で否定されることも考えられる。最悪の場合、今後心を閉ざされ会話することすらできなくなるかもしれない。
 指輪の爆発という時間制限を抱えた今の状況では、警戒されることは控えるのが賢明だろう。

「そうですね。信憑性が薄いのは間違い無いですからね。容疑者にそのままぶつければ言い逃れされるのはもちろん、何かしらの対処をしてくるかもしれません」

 リオネが考えを口にするとノエルが首を傾げた。

「対処って?」
「証拠隠滅とかアリバイ工作とか、色々ですよ。こちらの状況を悟られるのは避けたいところです」

 真剣な表情でリオネがそう話すとアルダリンは強く頷き、新しい紙に三人の容疑者の名前と動機を書き示す。そしてその中のオースティンの部分にグラスと葡萄酒を用意と書き足した。
 現時点で最も容疑者として有力なのはオースティンだろう。だが、オルタールやスミナ・ディフォルに関しても知らないことが多く一概には判断できない。
 そう考えたリオネは今後の行動について提案する。

「正面から話を聞きにいくのでは拒絶されてしまうかもしれません。ですから周囲を固めるのはいかがでしょうか。周囲の者にどういう人間だったのか、どういう噂があったのか。それを調べるんです」

 確かにそれがいい方法だろう。時間さえかければいつかは全ての情報を集めることができるだろう。
 けれど三人は幾つかの制約を背負わされていた。他人に指輪のことを気づかれてはならないという制約は他人の積極的な事件への協力の妨げになっている。
 それよりも大きな制約は時間だ。エスエ帝国に近づいた時点で指輪の爆発魔法が発動する。その制限時間が問題だ。いや、いつだってそれが問題になる。
 誰も堰き止めることのできない、誰もコントロールできない大きな流れ、それが時間だ。
 先ほどのリオネの提案では多くの時間を要することになるだろう。そう考えたアルダリンは苦虫を噛み潰したような表情で悩み、こう話し始めた。

「今から膨大な情報を集めるとなればこれまでの何倍も時間がかかってしまうでしょう。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、などという言葉がありますが、馬を狙っている時間がないならば将を射るしかないのですな」

 つまり、直接三人の容疑者に揺さぶりをかけるしかないのではないかということである。
 そうなれば相手の出方を見ながら高度な心理戦を挑まなければならない。簡単とは言えないはずだ。
 今度どう動くか。この三人の行動にグランマリア号が運んでいる全てが懸かっている。乗っている荷物、数々の予定、数百人の命、そしてその命が持っているであろう数々の才能や夢、希望、絶望。数百の命が作り出していく未来。
 そのプレッシャーを感じながらも三人はどうするべきかを考えていた。
 するとノックもなくアルダリンの部屋の扉が開き、何者かがゆっくりと入ってくる。
 扉の開閉音と足音に気づいた三人が入り口の方に視線を送ると見覚えのある男が立っていた。

「おいおい、注目されるのは嫌いじゃあねぇがな。殺気と警戒が入り混じった視線は勘弁してもらいてぇもんだな」
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