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三つの頭を持つ容疑の獣

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 ここまでの会話で二人の容疑者が浮上した。
 麻薬をディートから購入し転売しようとしていたオルタール。麻薬に依存していたというオースティン。
 どちらも麻薬繋がりでディートを殺害する動機はある。だが、確定的な証拠はまだ出てこない。
 状況を整理しながらリオネが口を開く。

「でも、もう一度オルタールさんやオースティンさんに話を聞きにいくのは難しいですよね。ディートとの関係を否定されている以上、証言ではなく確固たる証拠を持っていかないと・・・・・・」
「そうね。二人も容疑者がいるのなら証拠集めの労力は二倍だし、犯人かどうかは二分の一。まだまだ解決には遠いわよ」

 リオネの言葉を付け足すようにノエルがそう話すとセブンスが口を挟んだ。

「誰が二人と言ったんだ。ディート殺害の動機を持っている者ならもう一人いる。彼女は誰よりもディートを恨んでいるはずだ」
「彼女?」

 セブンスの言葉を聞いたリオネは驚きながら聞き返す。もう一人の容疑者をセブンスは彼女と呼んだ。つまり対象は女性。リオネの頭に浮かんだのは話を聞きに行った時、必要以上に拒絶した者の顔である。
 そしてセブンスはその女性の名前を紙に書き記した。
 スミナ・ディフォル。
 オランディ準男爵の娘である。

「彼女は三月前に婚約者を亡くしているんだ」

 セブンスは言いながらスミナの名前を線で囲んだ。その上に付け足した文字は怨恨。その様子を二人が眺めているとセブンスは説明を始める。
 黙っていた方がセブンスは勝手に話を進めると理解したのだ。

「グランマリア号内での麻薬の動きを追う中で浮上した幾つかの名前がある。それは麻薬の使用者の名前だ。使用者ってのは販売者よりもツメが甘い傾向にある。自分たちが安全圏にいると勘違いしちまうんだ。もちろん全ての使用者を知っているわけではないが、何人か情報は簡単に手に入った。そしてその中にスミナ・ディフォルの婚約者はいたのさ。婚約者の名前はインディゴ・フライ。まぁ、名前を覚える必要はそれほどない。ともかくインディゴは麻薬を使用し命を落としたのさ」

 セブンスの説明を聞いたノエルは事態を理解するように言葉を整理し、口を開く。

「麻薬で婚約者を失った・・・・・・それを売った大元であるディートを恨んでいるってわけ?」
「ああ、そのはずだよ。少なくともだからこそ彼女は再びグランマリア号に乗っている」
「どういうこと。今回も乗船していることが何か関係あるの?」
「ビンゴと言いたいところだがもう一歩先まで読んでほしいところだったな。スミナ・ディフォルだけじゃあないオルタールもオースティンも目的を持って乗船している」

 説明を続けながらセブンスはこう書き足した。麻薬の取引。
 その言葉の意味は即座にノエル、リオネに伝わる。セブンスの言葉を理解したリオネは驚きながら口を開いた。

「今回も麻薬の取引があるってことですね」
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