異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

理解するオースティン・ウェストヘッジ

　ブラッドがいないことを確認したノエルたち三人は廊下の端に寄り、通行の邪魔にならない場所で話し合いを始めた。

「せっかく、真相に近づけると思ったのですが中々前進しませんね」

　アルダリンがそう話すとリオネは少し考えてから口を開く。

「確かにブラッドさんはいませんでしたが、他にも二月前に乗船していた乗組員はたくさんいるはずです。誰か第一発見者を覚えている人はいないのでしょうか？」

　思いついたことをそのまま言葉にしたリオネ。そんなリオネにノエルが返答した。

「それは難しいんじゃない？　ルベルトから聞いた話だと、その時も重要参考人として探したんでしょ。ブラッドに話を聞こうとしたのもダメ元ってやつだったし、それ以外の乗組員じゃあダメで元々ってより元々ダメって感じよ」
「それもそうですね。じゃあ、やっぱり残りの四名に話を聞きに行くしかないか」

　リオネは言いながら頷く。
　ブラッドという可能性を失ったとしてもマイナスになったわけではない。同じ位置に戻っただけだ。
　だが、いつまでも同じ場所で立ち止まっている時間など三人にはない。
　こうしている間もグランマリア号は海上を進み、エスエ帝国に近づいている。
　それは爆発へのカウントダウン。まさしく導火線だった。
　そんな死への気配を感じながらも三人は振り返らずに進む。
　リオネの提案により、リストに載っている残りの四名の話を引き続き聞きに行くことにした。
　ネイサン、ルベルトの次に部屋が近いのはオースティン・ウェストヘッジである。
　オースティンはアルダリンと面識のない商人だ。
　事前情報は無いに等しい。
　部屋の前に到着したところでアルダリンが扉を叩いた。

「すみません、話を聞かせていただきたいのですが」

　呼びかけると部屋の中でゴソゴソと音がして、返事が帰ってくる。

「はいはい」

　慌てるような声と足音が響き、扉が開いた。
　出てきたのは大きめの眼鏡をかけたパッとしない風貌の男性である。年齢は三十歳前後だろうか。
　地味な服装と髪型だったが、優しそうな空気を纏っている。
　男性の姿を確認したアルダリンは即座に名乗った。

「いきなり訪ねて申し訳ない。私はアルダリン・ノーベンバーと申します。少々お話を聞きかせていただきたく参りました」
「おお、あのノーベンバー商会の。どうも、オースティンと申します。それでお話とは？」

　アルダリンの名前を聞いたオースティンは即座に誰なのかを理解し、友好的にそう返答する。
　この雰囲気であれば簡単に話を聞くことができるはずだ。
　そう感じたアルダリンは安心を覚えながら、話を進める。

「お聞きしたい話というのは二月前のことですぞ」
「二月前？　ああ、私が二月前に乗船していたことをご存知で？」

　話の意図を理解したのかオースティンはそう聞き返した。
　そんなオースティンにノエルが微笑みかける。

「あら、話が早いじゃない。その時のことを聞きたいのよ」

　ノエルの言葉を聞いたオースティンは考える様子もなく即座に口を開いた。

「ああ、確か二月前に乗船した時、この船の中で事件があったみたいですね。そのことですか？」