245 / 729
連載
六本の細い糸
しおりを挟む
「どうぞお入りください」
アルダリンの部屋の前まで戻ってきたノエルが扉を優しく叩くと彼の返事が聞こえる。
声に従うようにノエルとリオネが部屋に入ると、アルダリンは先ほどよりも多くの書類を広げ作業を続けていた。
広げられた書類の一部は机の上に並び切らず、床にも落ちている。
広げ切った書類を纏めながらアルダリンが二人に声をかけた。
「どうでしたかな。有益な情報を手に入れることはできましたか?」
アルダリンの問いにリオネが答える。
「どんな情報も無駄にはならないと思いますが、決定的な情報は得られませんでしたね。状況だけを考えれば自殺と判断してもおかしくはないかと思います」
そう言ってからリオネはディートがその人生を終えた部屋でのことを説明した。
乗組員のジョンが協力してくれたこと。扉には錠が二つあり、内側から閉じた錠を外から開くことはできないということ。ディートは死の直前まで誰かと部屋で酒を飲んでいたこと。ディートの命を奪った毒は五つあるグラスの内の一つだけから検出されたこと。
現場の状況を聞いたアルダリンは口髭に触れながら頭の中を整理し口を開いた。
「なるほど・・・・・・ディート氏と部屋で酒を飲んでいたとされる者が誰かはわかっていないということですな」
「ええ、そうよ」
ノエルが答えるとアルダリンは何かを察したように書類の中から数枚を抜き取る。
「つまり、その誰かが判明すれば真相に大きく近づけると考え、お二人はこの部屋に戻ってこられたのですよね。ちょうど良かった。今、リストの照合が終わり情報をまとめ終わったところです。二月前もグランマリア号に乗船しており、今回も乗船している者のリストがこちらです」
そう言いながら先ほど手に持った書類をノエルとリオネに見えるように広げた。
そこには六名の名前と職業、そして今回泊まっている部屋の場所が記されている。見せられた書類を眺めながら、ノエルは驚きの声を漏らした。
「すごいわね。この短時間でここまで照合して纏めたの?」
「ほっほっほ、これでもノーベンバー商会を取り仕切っておりますからな。事務作業は得意な方ですぞ」
褒められたアルダリンは誇らしげに口髭を撫でる。
ノーベンバー商会という大きな組織を運営するアルダリンにとってこの程度の作業は文字通り朝飯前だったようだ。
そんなアルダリンの能力に感心しながらノエルとリオネは書類に目を通す。
二人が書類を読んでいる中、アルダリンは情報を補足した。
「このグランマリア号の乗客数は三百人前後です。そのうちの六人だけが二月前の状況を知っている可能性があります。しかし、あくまでも可能性ですよ。もちろん乗組員たちはある程度の状況を知っているでしょうが全員が仕事をしているか仕事に備えて休んでいたはず。そう考えれば細い糸ですが、今はそれにしがみつくしかありません。とにかく今できることはその六名に話を聞くことでしょうな」
アルダリンの言葉を聞いたノエルとリオネは六名のリストを手に取り立ち上がる。すぐに聞き込みに行こうという姿勢だ。それを察したアルダリンが慌てて声をかける。
「お待ちくだされ。今すべきことは聞き込みではありません」
「え、でも、時間が」
リオネがそう言い返すとアルダリンは優しく微笑んでこう言った。
「わかっていますよ。ですが、冷静な推理をするためにもまずは朝食です」
アルダリンの部屋の前まで戻ってきたノエルが扉を優しく叩くと彼の返事が聞こえる。
声に従うようにノエルとリオネが部屋に入ると、アルダリンは先ほどよりも多くの書類を広げ作業を続けていた。
広げられた書類の一部は机の上に並び切らず、床にも落ちている。
広げ切った書類を纏めながらアルダリンが二人に声をかけた。
「どうでしたかな。有益な情報を手に入れることはできましたか?」
アルダリンの問いにリオネが答える。
「どんな情報も無駄にはならないと思いますが、決定的な情報は得られませんでしたね。状況だけを考えれば自殺と判断してもおかしくはないかと思います」
そう言ってからリオネはディートがその人生を終えた部屋でのことを説明した。
乗組員のジョンが協力してくれたこと。扉には錠が二つあり、内側から閉じた錠を外から開くことはできないということ。ディートは死の直前まで誰かと部屋で酒を飲んでいたこと。ディートの命を奪った毒は五つあるグラスの内の一つだけから検出されたこと。
現場の状況を聞いたアルダリンは口髭に触れながら頭の中を整理し口を開いた。
「なるほど・・・・・・ディート氏と部屋で酒を飲んでいたとされる者が誰かはわかっていないということですな」
「ええ、そうよ」
ノエルが答えるとアルダリンは何かを察したように書類の中から数枚を抜き取る。
「つまり、その誰かが判明すれば真相に大きく近づけると考え、お二人はこの部屋に戻ってこられたのですよね。ちょうど良かった。今、リストの照合が終わり情報をまとめ終わったところです。二月前もグランマリア号に乗船しており、今回も乗船している者のリストがこちらです」
そう言いながら先ほど手に持った書類をノエルとリオネに見えるように広げた。
そこには六名の名前と職業、そして今回泊まっている部屋の場所が記されている。見せられた書類を眺めながら、ノエルは驚きの声を漏らした。
「すごいわね。この短時間でここまで照合して纏めたの?」
「ほっほっほ、これでもノーベンバー商会を取り仕切っておりますからな。事務作業は得意な方ですぞ」
褒められたアルダリンは誇らしげに口髭を撫でる。
ノーベンバー商会という大きな組織を運営するアルダリンにとってこの程度の作業は文字通り朝飯前だったようだ。
そんなアルダリンの能力に感心しながらノエルとリオネは書類に目を通す。
二人が書類を読んでいる中、アルダリンは情報を補足した。
「このグランマリア号の乗客数は三百人前後です。そのうちの六人だけが二月前の状況を知っている可能性があります。しかし、あくまでも可能性ですよ。もちろん乗組員たちはある程度の状況を知っているでしょうが全員が仕事をしているか仕事に備えて休んでいたはず。そう考えれば細い糸ですが、今はそれにしがみつくしかありません。とにかく今できることはその六名に話を聞くことでしょうな」
アルダリンの言葉を聞いたノエルとリオネは六名のリストを手に取り立ち上がる。すぐに聞き込みに行こうという姿勢だ。それを察したアルダリンが慌てて声をかける。
「お待ちくだされ。今すべきことは聞き込みではありません」
「え、でも、時間が」
リオネがそう言い返すとアルダリンは優しく微笑んでこう言った。
「わかっていますよ。ですが、冷静な推理をするためにもまずは朝食です」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,845
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。