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何者かの存在

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 そう、既に出さなければならない答えは決まっている。それは自殺以外という答えだ。
 自殺だと断定されるような状況で自殺ではないという答えを導き出さなければならないのである。
 そのためには自殺という考えを捨てなければならない。
 たとえ全ての証拠がそう話していてもだ。
 リオネは部屋を見渡しながら口を開く。

「酒には毒が入っていなくて、グラスに毒・・・・・・グラスは五つ。とにかく亡くなる直前までお酒を飲んでいたことは間違いないんですよね。そして状況的に見ても途中までは誰かが一緒にいたはずです。誰と一緒にいたのかはわかっているんですか?」

 リオネはジョンに尋ねた。するとジョンは再び懐から手帳を取り出しページを捲る。何ページか目で追いかけてからジョンは首を横に振った。

「うーん、それが誰かまでは特定されていないんですよね。二月前も調査したのですが、ディート氏は一人で乗船されています。それに誰も自殺者と関わりを持っているとは名乗り出たくないようで」
「そりゃあそうよね。下手すれば殺害したと疑われかねないもの」

 そう言いながらノエルは前髪をかき上げる。その様子は頭を抱えているようにも見えた。
 死の直前まで誰と一緒に居たのかさえ分かれば容疑者を絞ることができただろう。だが、二月前の時点で判明していないのであれば、今から探し出すのは不可能に近い。
 絶望的な状況と言っていいだろう。
 だが、リオネの瞳は光を失っていなかった。

「でも誰かと一緒に居たことは確かです。アルダリンさんがリストの照合をしてくれれば、当日居た人に話を聞くことができるかもしれません。今調べるべきことは、ディートさんがこの部屋でお酒を飲んでいたのは誰か。どうやって毒を飲ませたのか。そして内側から錠を閉じた方法です」

 冷静に話を進めるリオネ。その折れない姿勢を目にしたノエルは深呼吸をしてから頷く。

「そうね、調査を先に進めた方がいいのかも。それにこの部屋から得られる情報はこれくらいかもしれないわ。一度アルダリンさんの部屋に戻りましょうか。リストの照合が終わってるかもしれないわね」

 この部屋で得た情報は二つの錠によって密室が守られていたこと。ディートが死の直前まで何者かと葡萄酒を飲んでいたこと。
 わからないことは多いが、そのおかげで次のステップへと進むことができる。
 ディートが死の直前に誰といたのかを調べること。
 それがディート自殺の真相に近づくための唯一の道だ。
 ノエルの言葉を聞いたリオネは部屋を見渡してから頷く。

「確かにこれ以上部屋からは何も出てきそうにないですね。ノエルの言う通り、アルダリンさんのところに戻りましょう」
「じゃあ、そういうことだから私たちは戻るわね、ジョン。また何かあれば協力してくれる?」

 ノエルはジョンにそう話しかけた。するとジョンは手帳を懐にしまいながら答える。

「ええ、もちろんです。私はこの階の乗組員室におりますので、御用の際はお声掛けください」
「ありがとうございます」

 ジョンに礼を言うリオネ。
 この場での調査を終えたリオネとノエルはそのまま退室しアルダリンの元へと向かった。
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