異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

魚醤と指輪

　その手に持っているのは大きな切り身が四つ刺さっている串である。醤油のような色の調味料をかけながら焼いているらしい。香ばしい匂いが漂ってきた。

「あ、ノエルさん、ありがとうございます」

　ノエルが買ってきたクラーケンの串焼きを受け取り、倉野はそのまま口に運ぶ。魚醤のようなクセのある香りと肉厚なクラーケンの食感が口いっぱいに広がった。その後からクラーケンの旨味が追いかけてくる。
　名物になっているのが納得できる美味しさだ。
　いきなり食べ始めた倉野にノエルが苦笑しながら話しかける。

「道端で食べ始めるなんてどれだけお腹空いてたのよ。せめて、どこかで座って食べない？」
「あ、そ、そうですよね」

　そう答えて倉野が歩き出そうとするとリオネが手を伸ばしてきた。
　その手は倉野の口元へと向かい、唇を拭うように撫でる。

「え、あのっ」

　戸惑いながら仰反る倉野にリオネが微笑みかけた。

「ふふっ、口元に着いてましたよ」
「あ、あの、ありがとうございます」

　照れながら礼を言う倉野。そんな二人を見ながらノエルが再び苦笑する。

「ほら、さっさと行くわよ。そんなの見せられてたら食べる前にお腹いっぱいになっちゃうわよ」
「そうですね。あそこにベンチがありますから座って食べましょうか」

　ノエルの言葉を聞いたリオネは言いながら近くにあったベンチを指さした。この大通りには多くの食べ物が売っているので、座って食べられるようにベンチが設置されているのだろう。リオネが指さしたベンチ以外にも幾つか等間隔で設置されていた。
　そのまま三人はベンチに座りクラーケンの串焼きを食べる。
　どうやらノエル的にはそれほど好みではなかったらしく、首を傾げながら食べていた。焼くときに塗っている魚醤のようなものに癖があり、それが苦手らしい。それとは反対にリオネは好みの味だったのか喜んで食べていた。
　しばらく食べていると、突然見知らぬ女性から声をかけられる。どうやらそのベンチの隣にあった店の店員らしい。

「あの、すみません。少々よろしいですか？」

　声をかけられた三人はそちらの方向を見る。すると女性は軽く頭を下げながら微笑み言葉を続けた。

「うちの店で取り扱っている商品を紹介したくて声をかけさせていただいたのですが、見て行かれませんか？」
「あぁ、売り込みってことね。何を取り扱ってるの？」

　ノエルがそう答えると女性は店の方を指し示しながら説明する。

「うちは装飾品を取り扱ってるんです。でも、ただの装飾品じゃないですよ。魔石を含んだ金属を使っているので魔力を高めることができるんです。見たかぎり冒険者の方ではないかと思ったのでお声かけさせていただいたんです」
「私は傭兵だけどね。へぇ、そんなものがあるんだ。魔力が上がるなら付けていて損はないわね。どんなものがあるの？」

　興味を持ったノエルがそう問いかけた。すると店員は待っていたと言わんばかりに隠し持っていた商品を見せる。
　見せられたのは銀色に輝く指輪だった。石のようなものは付いていないが綺麗な模様が彫られている。