219 / 729
連載
ツクネの寝息
しおりを挟む
その後、アルダリンの提案によりノーベンバー商会が経営している宿に全員が泊まることになった。
夕食に誘われたのだが、疲れ果てていた倉野とノエルは用意されたそれぞれの部屋で休むことにする。
ノーベンバー商会の経営する宿は決して豪華ではなかったが、驚くほど清潔にされていた。部屋の中もベッドと小さな机だけだったが、過ごしやすいように整えられている。
部屋に着いた倉野はベッドに座り、鞄の中を覗き込んだ。するとツクネが体を丸めて眠っているのが見える。
倉野は鞄の中に手を入れ、微笑みながらツクネの頭を優しく撫でた。ツクネは心地良さそうに寝息を立てている。
「お前にも助けられたなぁ。いつもありがとうツクネ、ゆっくりおやすみ」
そう囁くように声をかけた倉野は自分もベッドに倒れ込んだ。
長い一日だった、頭の中で呟きながら倉野は今日あったことを思い出す。
エスエ帝国の帝都にいたこと。レインの事情を知り動き出したこと。
巨大な魔石を探し、オランディに転移したこと。そのままフォルテと戦ったこと。その後、王城でエヴァンシル王やリヴィエールと出会ったこと。悪魔アスタロトとの遭遇、不治の病を患うメディーナを治すための行動。
そして、レインたちとの別れとリオネとの再会。
倉野にとってどんな過去よりも濃い一日だった。
そして忘れることのできない一日である。
強烈な思い出、体の痛みと疲れが倉野を眠りへと誘った。
何かがもぞもぞ顔の周りで動いていると感じ倉野はゆっくりと目を開ける。
窓から差し込む光が強く、視界が奪われた。
「うっ・・・・・・眩しい」
ふわふわとした眠気は残っているが、その光で朝が来たのだと理解する。
もし動き出す時間なのだとすれば誰かが部屋まで呼びにくるはずだ。
まだ眠ってもいいのだと判断した倉野はもう一度目を閉じる。
だが、そんな倉野の鼻先を何かが触れた。少し濡れていてざらざらしている小さなものが触れ、もう一度目を開けるとツクネが嬉しそうに鳴く。
「クク!」
「ん? ああ、ツクネか。起きたんだな、おはよう」
「クー」
倉野が話しかけるとツクネは何かを主張するように倉野の前髪を噛んで引っ張った。
「どうしたんだよ、ツクネ」
「クク!」
「ああ、そっかお腹すいたんだね。わかったわかった、ちょっと待って」
そう言ってから倉野は上体を起こし鞄を探る。確か干し肉が残っていたはずだと探ったのだが鞄には地図とお金を入れた布袋があるだけだった。
「あれ、干し肉があったはずなんだけどなぁ」
「ククー」
「もう食べちゃったのか。よし、じゃあ一緒に買いに行こうか」
言いながら倉野は立ち上がり、身支度を整える。
倉野が準備を終えるとベッドで待っていたツクネは嬉しそうに肩に飛び乗った。
「じゃあ、行くよツクネ」
ツクネに声をかけてから倉野は部屋を出る。
部屋を出ると宿の出入り口に向かう長い廊下が伸びており、そこにアルダリンが立っていた。
夕食に誘われたのだが、疲れ果てていた倉野とノエルは用意されたそれぞれの部屋で休むことにする。
ノーベンバー商会の経営する宿は決して豪華ではなかったが、驚くほど清潔にされていた。部屋の中もベッドと小さな机だけだったが、過ごしやすいように整えられている。
部屋に着いた倉野はベッドに座り、鞄の中を覗き込んだ。するとツクネが体を丸めて眠っているのが見える。
倉野は鞄の中に手を入れ、微笑みながらツクネの頭を優しく撫でた。ツクネは心地良さそうに寝息を立てている。
「お前にも助けられたなぁ。いつもありがとうツクネ、ゆっくりおやすみ」
そう囁くように声をかけた倉野は自分もベッドに倒れ込んだ。
長い一日だった、頭の中で呟きながら倉野は今日あったことを思い出す。
エスエ帝国の帝都にいたこと。レインの事情を知り動き出したこと。
巨大な魔石を探し、オランディに転移したこと。そのままフォルテと戦ったこと。その後、王城でエヴァンシル王やリヴィエールと出会ったこと。悪魔アスタロトとの遭遇、不治の病を患うメディーナを治すための行動。
そして、レインたちとの別れとリオネとの再会。
倉野にとってどんな過去よりも濃い一日だった。
そして忘れることのできない一日である。
強烈な思い出、体の痛みと疲れが倉野を眠りへと誘った。
何かがもぞもぞ顔の周りで動いていると感じ倉野はゆっくりと目を開ける。
窓から差し込む光が強く、視界が奪われた。
「うっ・・・・・・眩しい」
ふわふわとした眠気は残っているが、その光で朝が来たのだと理解する。
もし動き出す時間なのだとすれば誰かが部屋まで呼びにくるはずだ。
まだ眠ってもいいのだと判断した倉野はもう一度目を閉じる。
だが、そんな倉野の鼻先を何かが触れた。少し濡れていてざらざらしている小さなものが触れ、もう一度目を開けるとツクネが嬉しそうに鳴く。
「クク!」
「ん? ああ、ツクネか。起きたんだな、おはよう」
「クー」
倉野が話しかけるとツクネは何かを主張するように倉野の前髪を噛んで引っ張った。
「どうしたんだよ、ツクネ」
「クク!」
「ああ、そっかお腹すいたんだね。わかったわかった、ちょっと待って」
そう言ってから倉野は上体を起こし鞄を探る。確か干し肉が残っていたはずだと探ったのだが鞄には地図とお金を入れた布袋があるだけだった。
「あれ、干し肉があったはずなんだけどなぁ」
「ククー」
「もう食べちゃったのか。よし、じゃあ一緒に買いに行こうか」
言いながら倉野は立ち上がり、身支度を整える。
倉野が準備を終えるとベッドで待っていたツクネは嬉しそうに肩に飛び乗った。
「じゃあ、行くよツクネ」
ツクネに声をかけてから倉野は部屋を出る。
部屋を出ると宿の出入り口に向かう長い廊下が伸びており、そこにアルダリンが立っていた。
1
お気に入りに追加
2,844
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。