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サヨナラの気配

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 悪魔との契約、兄妹の絆を見届けた倉野は体の痛みを感じながら立ち上がる。
 これからこの国は様々な問題を解決していかなくてはならない。ノワール家の裏切りに対する処罰。ルージュ家の処遇。もちろん、最上級貴族はそれぞれ国の中で役目を持っているので慎重に影響を配慮した上で決定するだろう。
 他にも王位継承や国外の影響など考えなければならない。
 だが、そこに倉野が介入する余地はなかった。
 もう大丈夫だろう、そう判断した倉野はひっそりとオランディを出ようと決意したのである。
 倉野が立ち上がったことに気づいたレインが疑問に思い問いかけた。

「どうしたんだい、クラノ」
「いえ、ちょっと」
「まさか、この国を出て行こうと思ってるんじゃないだろうな」

 曖昧に答える倉野にレインはそう返す。
 図星だった倉野は苦笑いをしながら、誤魔化そうとした。
 しかし、レインはさらに言葉を続ける。

「駄目だクラノ。まだ俺は感謝を伝えられてない。いや、感謝しても仕切れないのだが、それでも何も返せてないじゃないか。クラノがいなければ俺はまだエスエ帝国にいた。アスタロトを従わせることなんて出来ていない。クラノがいなければ、今ここにいる全員が笑うことなんて出来ていなかったんだ」

 そう話すレイン。他の者はそんな二人の様子を見守っていた。
 レインの言葉を聞いた倉野は優しく首を横に振る。

「僕たちは友達じゃないですか。僕たちの間に貸し借りなんてない。エスエ帝国の件では助けてもらいましたしね」
「だけど・・・・・・俺は・・・・・・」

 心の声を絞り出そうとするレインだったが、リヴィエールが止めに入った。

「騎士レイン、おやめなさい。貴方の気持ちはわかります。ですが我が国はこれから今以上に戦わなければならない、決断を繰り返し国を立て直さなければならない。クラノ殿はそれを分かって去ろうとなさっているのです。まだクラノ殿にいてもらいたいのは私もですが、それをこの世界では我が儘と呼ぶ」
「リヴィエール様・・・・・・しかし・・・・・・」
「ただ貴方は寂しいのです。気持ちはわかりますがね」

 そう言ってリヴィエールは微笑む。
 自分の気持ちを言葉にされたレインは停止し我に返った。

「・・・・・・そうですね。俺は無意識の中でクラノとの別れを惜しんでいたのかも知れません」

 レインが言いながら倉野の顔を真っ直ぐに見つめる。
 視線を受けた倉野は照れ臭そうに笑顔を浮かべ、口を開いた。

「僕も寂しいですよ。ですが、レインさんはオランディに残りこの国を立て直さなければならない。そして僕にできることはもうない。それに僕は約束しましたから、必ず帰るって」

 エスエ帝国で待つレイチェルやシラムのことを想いながら倉野はそう話す。
 レインもその約束のことは覚えていた。倉野の言葉を聞いたレインは一度頷き、爽やかな笑顔を見せる。
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