異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

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エヴァンシル王とイージス・ディザイア

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 そんな会話をする二人の間に倉野が割って入った。

「すみません、時間がなかったので手荒になってしまいました。ブレイズと話すにはどうしてもエヴァンシル王が必要だったので」
「あ、ああ、構わんよ。少し驚いただけだ。手段よりも結果が大切だからな」

 エヴァンシル王はそう言ってからレインにも声をかける。

「騎士レイン、よく持ち堪えてくれた。千の相手を前にして退かぬ勇気を称えよう」
「いえ、騎士として当然の行動です」
「ふっ、そうか。まぁいい、後は私たちにまかせろ。行こうかクラノ殿」

 王にそう言われた倉野は頷き、ルージュ軍と向かい合った。
 エヴァンシル王は地面に根を張ったかのように堂々と強く立ち、ルージュ軍の中心にいるブレイズに向け叫ぶ。

「聞け! ブレイズ・ルージュ! 貴殿の目的は分かっている。必ず目的に沿うと約束しよう。兵を下げ、話し合いの席につけ!」

 王の叫びを聞いていたはずのブレイズだが、何も反応がない。
 その代わり、先頭にいた私兵軍を束ねるイージスという男が答えた。

「困りますなぁ、エヴァンシル王。現在、交渉は私に一任されています。直接ブレイズ様に話しかけるのはルール違反というやつではないですか?」
「ほう、いつから貴殿はルールを決める立場になったのだ、イージス・ディザイア。ルージュ家の番犬に過ぎないだろう。そもそもルールというのならば我が国は国内での武力行使を認めていない」

 エヴァンシル王が言い返すとイージスは明確な苛立ちを表情に表す。

「ちっ、ルールとは強者が定めるものですよ、王」
「そう熱り立つな。我々は話し合いをしようと言っているだけだ。争う必要はない」
「意見が食い違っているのならば、戦うしかないでしょう。話し合うまでもないということですよ」

 そう答えながらイージスは腰の剣に触れた。
 聞く耳を持たないとはこういうことなのだろう。ルージュ側は戦って制圧しようと考えているらしい。
 王の隣で話を聞いていた倉野は相手が冷静でないと気づく。
 イージスやブレイズだけではなくルージュ軍全員が目を血走らせていた。元々戦うつもりでいたのだろう。
 戦う覚悟を持ってきている者の勢いを感じた。脳内物質が溢れ、恐怖や痛みを感じない状態なのだろう。
 このまま話を続けても王の言葉は届かない。
 そう判断した倉野は深呼吸をする。

「体は限界だけど、仕方ないか・・・・・・エヴァンシル王、今から時間を稼ぎます。相手の興奮状態を終わらせるので、それから話をしてください」

 王に伝えてから倉野はスキル神速を発動した。
 スキル神速を発動した倉野は文字通り神領域まで速度を上げる。誰の目にも止まらぬほどの動きをする倉野にとっては周りの時間が止まったかのように感じるというスキルだ。
 もちろん弱点はある。自分一人では魔法を使えない倉野は魔法の壁を突破できない。つまり、相手が予測して魔法で防御していれば倉野は相手に触れないのだ。
 だが、前情報もなく不意打ちで発動したスキル神速に勝てる者などいない。
 相対的に周囲の時間を止めた倉野はルージュ軍に近づき、全員の武器をはたき落した。
 イルシュナとビスタ国の戦争を止めた時と同じ方法である。
 一人一人数えながら武器をはたき落とし、千五十二を数えたところルージュ軍の全員は武器を持っていない状態になった。

「スキル神速解除」
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