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迫りくる赤

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 その声に反応したエヴァンシル王が降ってきた階段を覗き込んだ。階段の上にいたのは王城前にいた兵士の一人である。
 王は降ってくる兵士に声をかけた。

「どうしたんだ、慌てて。どうしてここにいるとわかった?」

 王の言葉に続きリヴィエールも呟く。

「退避するように命令が出ているはずですが、一体どうしたというのでしょう」

 二人から問いかけられた兵士は階段を降りきり、息を荒げながら緊急事態の内容を説明した。

「場所は・・・・・・レイン様に・・・・・・王城前に・・・・・・王城前に、兵が・・・・・・兵が!」

 何とか説明しようとする兵士だったが、荒れた呼吸ではうまく伝えられない。
 そんな兵士の肩に手を置きながらリヴィエールが話しかける。

「落ち着きなさい。まずは呼吸を整えて、ゆっくりと話すのです。王城前に兵がいるのは当然でしょう。王の命令があり国軍兵士は全員が待機しているのですから」
「い、いえ、違います。我々ではありません」

 何とか呼吸を整えた兵士がそう答えるとエヴァンシル王は首を傾げた。

「どういうことだ。国軍ではないだと?」
「はい・・・・・・現在ルージュ家当主ブレイズ・ルージュ様が私兵の軍を引き連れ王城前を占拠しております。戦闘行為は行っておりませんが、国軍とルージュ軍で睨み合っている状態です」
「なんだと、それは本当か」

 報告を聞いた王は身を乗り出して驚く。
 隣で聞いていたリヴィエールは少し考えてから口を開いた。

「どうやら我々は一歩遅かったようですね。王位継承権に近い王子たちが亡くなり、ノワール家の血を引くスクレット様は病を抱えている・・・・・・そうなれば自然とルージュ家の血を引いた王子のどちらかが次期国王になるでしょう。通常ならばルージュ家は待っていても王家になるはず。しかし、ブレイズには、いやメディーナには時間が残されていない。そう考えたブレイズは私兵を率いて迅速に王位継承を行うよう交渉に来たのでしょう。私兵軍を引き連れてきたのは王にプレッシャーをかけるため」

 考察するリヴィエール。それを聞いていたノエルが首を傾げる。

「それがどうしたっていうのよ。メディーナを救う方法は見つかったんだし、そのための悪魔もいる。説明すれば無理に王位継承権を奪おうとはしないんじゃない?」

 アスタロトを指差しながらノエルが問いかけた。
 だが、エヴァンシル王もリヴィエールも表情を曇らせている。
 そんな二人を見ながら倉野が疑問を口にした。

「どうしたんですか。ノエルさんの言う通り問題ないんじゃないですか?」
「いえ、そう簡単ではないでしょう」

 そう答えるリヴィエールに倉野が再び問いかける。

「どういうことですか? 戦う理由なんてないじゃないですか。ブレイズの目的はクレアシオンでメディーナの命を伸ばすことなんですから」
「ええ、そこは間違いありません。ですが考えてみてください。ブレイズが攻めてきてから相手の要求を全て満たす話をするのですよ。誰が考えても怪しいでしょう」

 リヴィエールが話す説明を聞いた倉野とノエルはなるほどと納得した。

「確かにそうね。怪しいどころか王位継承権を渡したくないがために嘘をついているのかなって疑うわ。時間がなくて焦ってる向こうからすれば話し合いの時間すら惜しいはずだから怪しいと感じた時点で聞く耳を持たないかも」

 状況を考えてノエルがそう話す。聞いていたリヴィエールは頷き、考え込んだ。
 どうすればブレイズを納得させられるのだろう、と。
 ブレイズを納得させなければ、メディーナとアスタロトの契約まで進めないということだ。また、納得しなければブレイズが無理やり王城に攻め込みクレアシオンを手に入れようとするかもしれない。
 だが、そんな悩みは彼の一言で吹き飛んだ。

「私がクレアシオンを持って、そのブレイズとやらと話せばいいのではないか?」

 そう言ったのはアスタロトである。
 
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